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軍本部の一室で赤瀬は半年前の事件のことを考えていた。下水道でハンターが行方不明となった事件だ。あれから特に変わったことは起きていない。結局、あの事件はなんだったのかと思っているとドアがノックされた。
「失礼します!」
返事を待たずに開け放たれたドアに驚きながらもその焦った様子に先を促す。
「どうした?」
「シェルター外部に変異体や発症者を引き連れた者が来ており門を開けるように要求しています」
発症者を引き連れているという言葉に赤瀬は眉を顰める。
「上への報告は?」
「先にしたところ赤瀬中佐に現場での指揮を任せるとのことです。既に一個大隊の出撃準備が済んでおります」
「手際の良いことだ。分かったすぐに向かう」
壁に掛けておいた上着に袖を通すと急いで部屋を後にした。
壁の上から見下ろすとそこは多くの発症者で埋め尽くされていた。
「ざっと見で二千を超えてるな・・・。過去にも何度か発症者の襲撃はあったがこの数は初めてじゃないか?」
「ええ、変異体も見える範囲で数十はいますね。異例だらけです」
赤瀬の言葉に副官が答える。
「それで、首謀者はあの先頭にいる男か?」
「はい。先ほどから門の扉を開くように要求してきています」
「馬鹿か?なぜ襲われていないかは知らんがあれだけ発症者がいる状態で門を開く訳がないだろ」
「それがあの男は発症者は無害だと言っておりまして・・・」
その答えに言葉を失う。
「信じられん。今の時代にそんな妄言を吐ける人間がいるとはな」
話す二人の元に一人の軍人が駆け寄ってきた。
「どうした?」
「は!あの男を見たことがあるという者がおりましたのでその報告を」
「続けてくれ」
「五年前の暴動であの男を見たことがあるそうです。あれは蝿鈴ではないかと」
蝿鈴といえば発症者共生派の指導者だった人物だ。またあの男が発症者を引き連れてシェルターにやって来たということか。
「報告ご苦労。悪いんだが君、ギルドへ行って応援の要請をしてきてくれないか?思ったよりも発症者の数が多くてね。万が一の事態は避けたい」
「了解しました!」
一度啓礼し去っていく軍人を見送ると赤瀬は蝿鈴の方を見る。そして声を張り上げた。
「おい!貴様!私は他の者の様に優しくないぞ!生け捕りなどという温いことを言う気はない!やるとなれば皆殺しにする!殺されたくなければ投降しろ!」
「皆殺しか。気が合うな!私も大人しく門を開けないならそうしようと思っていたんだ」
蝿鈴の呟きは赤瀬達には聞こえていなかったが投降する気がないと判断した赤瀬は兵達に銃撃の許可を出した。一斉に銃を構え引き金に指を掛ける。その様子を見て蝿鈴は一歩下がるとジャイアントの影に隠れた。そして、発症者達に突撃の命令を下す。発症者の雄叫びと銃撃の音がぶつかった。




