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「これでだいたい終わりですかね?」

 血まみれのペオルが額の汗を拭いながら蝿鈴に聞いた。

「ああ、あとは臓器が馴染むのを待ってからだね。それじゃあ、縫合しようか」

「こっちの実験体は廃棄でいいですかぁ?」

 蝿鈴が答えようたした瞬間、手術台の川崎が激しい痙攣を始めた。切開部からは血が噴き出し手術台の拘束を引き千切る勢いで身体が跳ねる。口にした猿轡には罅が走った。

「うわ!何!?」

 ペオルの驚きの声とは対照的に蝿鈴は冷静に状態を見た。

「通常、Sウイルスには一種類しか感染しないといった理由がこれだよ。Sウイルスは宿主の体内に別種のSウイルスが入ってきた場合、それを駆除するんだ。体内でSウイルス同士が争うと周りの細胞が破壊されてね。今、彼の身体の中では元からあったSウイルス3種類と移植された臓器内の別のSウイルス3種類が争っている状態という訳だ。このまま放っておくと周囲の細胞が破壊し尽くされて死んでしまう。おーい!剛志!来てくれ!」

 蝿鈴は部屋の外に向かって大声で呼びかけると足音が部屋に近づいてくる。そして、ジャイアントが姿を現した。それは川崎達が下水道で遭遇したジャイアントだった。ジャイアントは窮屈そうに屈むと部屋に入る。

「すまんな剛志。少しこの実験体を押さえていてくれ」

 呼びかけられたジャイアントが暴れる川崎を力任せに押さえつける。その間に蝿鈴は戸棚から木箱を出すとそこから小瓶を取り出した。

「ペオルさん、保冷庫からワクチンを二本取って来てくれるかい」

「分かりました。博士、それってなんですか?」

「ああ、これかい?モルヒネだよ」

暴れる川崎に近づくと素早く注射をする。

「しばらく抑えててくれ」

ジャイアントにそう言うとペオルからワクチンを受け取る。頭部を折るとそのまま中身を切開部に注いだ。

「それって意味あるんですか?」

「発症者にワクチンが効かないのは体内のSウイルスの数と増殖速度がワクチンの駆除速度を上回っているからだ。今必要なのは体内で暴れているSウイルスの数をなるべく減らすことだからね。まぁ気休めかもしれないが何もしないよりはいいんじゃないかな?」

 蝿鈴の返事にペオルは疑問を口にした。

「それじゃあ博士、ワクチンを投与し続けたら発症者も治せるってことじゃない?」

「Sウイルス同士が争うと周囲の細胞が壊れると言っただろう?ワクチンは無害化されたSウイルスだからね。結局、発症するほど全身にSウイルスが蔓延しているならそれとワクチンの争いに肉体が耐えられないよ」

 手持ち無沙汰になったペオルは近くの椅子に座ると横目にジャイアントを見た。なぜか蝿鈴の言うことを聞く変異体。いや、この変異体だけではない。以前、多くの発症者が蝿鈴の命令に従って動いているのを見た。その時は蝿鈴の周りに狂信的な人が溢れていたが、五年前にシェルターに乗り込もうとした際に見事に壊滅した。

今ではこの隠れ家にいる非感染者は自分と蝿鈴だけとなった。以前、蝿鈴になぜ感染者が言うことを聞くのかと聞いたところ「私は神の声が聞こえるからだよ」と嘘か本当か分からないことを言われた。それが本当のこととは思っていないが、とりあえず面白そうなのでペオルは蝿鈴の悪趣味な実験に付き合っている。

「ようやく効いてきたかな?剛志はもう戻ってていいよ」

 ジャイアントが蝿鈴の言葉で部屋を出て行く。手術台の上を見ると先ほどまでと打って変わってピクリとも動かなくなっている。その横で蝿鈴が拘束用のベルトを手に立っていた。

「また暴れられたら面倒だから拘束をもう少しきつくしておこう。手伝ってくれるかい?」

 その言葉にペオルは椅子から立ち上がった。

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