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あれからどのくらいの時間が経ったのだろうか、少なくとも二回は感染者の血液を注射されたと思う。それ以外にも何か注射されたせいで頭が上手く働かない。
「ふむ、麻酔は効いているようだね。量が少なかったから心配だったんだが・・・。一応、低温療法も平行しているし大丈夫かな?」
川崎の首元や脇の下、太腿の付け根など太い血管がある場所に保冷剤が置かれ腕から伸びた点滴には冷えた生理食塩水が繋がれている。
「博士~これ本当にやり方合ってます?確かにめっちゃ体温は下がってますけど」
「うーん・・・。私は医者じゃないからねぇ。うろ覚えの知識だから怪しいがSウイルスで身体は頑丈になってるはずだし大丈夫じゃないかな?」
朦朧とする意識の中で不穏な会話が聞こえるが川崎はどうすることもできなかった。
「それじゃあ、臓器移植を始めよう。ペオルさんはそっちの臓器の摘出を頼むよ」
蝿鈴はメスを握ると川崎の腹に刃を当てる。メスが錆びているせいか綺麗に切れず何度か刃を這わせる。
「いい加減メスも新しいのが欲しいなぁ」
皮膚の切開が終わるとクーパーを手に取り筋線維を切断する。開創器で軟部組織を広げるとピンクの臓器が見えた。
「うむ、健康的な色をしているね。ペオルさんそっちはどうだい?」
「あー、ちょっと待ってください。この実験体、傷の治りが早いからなかなか・・・」
川崎の視線が横に動くとそこにはストレッチャーに乗せられた男性の姿が見えた。ぼやけた視界の中で一瞬ピントが合う。それは見覚えのある姿だった。ストレッチャーの上に載っているのは斎藤だ。視線は定まっておらず、口はだらしなく空いている。
ペオルが乱雑にメスやクーパーを振るい血が飛ぶ。切り取られた皮膚や肉片が床にボトボトと落ちていく。
「よし!出来ました!」
そう言ってペオルが笑う。斎藤の腹は肉が削ぎ落され臓器が剥き出しになっていた。
「それじゃあ、まずは胃から始めようか」
蝿鈴の声が遠くから聞こえる。川崎の意識は闇の中に落ちていった。




