第二話
「いやぁ、楽しかったぜ、追いかけっこ。恐怖の汗の匂いがいい感じにそそって」
「僕が汗臭いってことですか!? この犬っころ!」
汗の匂いがすると言われて整った顔を真っ赤にした少女。
女性に臭いという恐れ知らずの狼は、そんな少女の様子を鼻で笑った。
「臭いものは臭え。でもいい匂いだと思うぜ? その汗を舐めとりたいぐらいだ」
「な、舐めるって、僕をどうするつもりですか!?」
「その四肢を順番に食いちぎって、達磨になった状態で楽しませてもらうんだよ」
「この悪趣味倒錯変態野郎! どうしてそんなことを!」
「決まってるだろ? 楽しいからだよっ!」
狼は疾走した。
獲物をその眼球に捉えた狼は、興奮に長い舌を口元から滑らせながら、少女へと飛び掛かった。
「ナビコンピュータ―。どうするべきだと思う」
「侵入者を捕縛してください」
「生け捕りってことか。ならこの状況、見過ごすわけにはいかねえよなぁ」
面倒くさそうに頭に手をやったゲイルは、一歩、足を踏み出し――。
「悪いがここは通さねぇ」
「なっ、テメェ! 俺の邪魔をするつもりか!」
次の瞬間には、ゲイルの姿は少女の前にあり、巨躯の狼相手に立ちはだかっていた。
それを見止めた狼は、その鋭利な爪を振りかざし、ゲイルのことを切り裂かんと攻撃する。
「この俺の爪は鉄をも切り裂く、斬鉄爪! テメェは耐えられるかな!」
「ナビコンピューター、脅威度分析」
「脅威度極小。対象を捕縛してください」
「了解」
「何ごちゃごちゃ言ってやがる!? 死ねぇっ!」
爪は振り下ろされた。
「装甲無傷。戦闘を続行してください」
「何!? 俺の爪を受け止めただと!」
でもって弾かれた。
全裸なゲイルの筋肉装甲によって。
「一体、どうなってやがる! 生身の人間が俺の斬鉄爪を――」
「貧弱ぅ!」
狼が動揺したその一瞬のスキをゲイルは逃さなかった。
身体に押し付けられたままの狼の腕に自身の腕を絡ませ、組み付く。
さすがの狼もこの時点で抵抗するが、逃れることはできなかった。
「か、硬え!」
「この俺から逃れようとしたのか? 罰として、お仕置きだ」
「ぬぅぉぉおおおお!?」
そのままゲイルは狼の巨体を持ち上げ、自分の真上まで狼の身体を持ってきた。
重量級の自分を持ち上げることができるとは思っていなかった狼は絶叫する。
「す、すごい、あの狼を手玉に取ってる」
「対象を無力化してください」
「あぁ、分かってる」
目を見開いて驚嘆する少女の前で狼を抱えるゲイルは、ナビコンピューターの指示に従って、狼を少女に投げつけた。
「え、な、なんで僕に!? うわぁ!」
少女は、ゲイルの予想外の行動になすすべもなく巨大狼の下敷きになった。