初討伐のドラゴン
9歳になった僕。
あれから色々と経験し、ラーガおじさんから追加される鬼畜メニューや、おばあちゃんから教えられる膨大な知識、マヤおばさんのモンスター解体の仕方の伝授、そしておじいちゃんからの知っている限りの魔法の伝授…など、まあ体が追いつかなくなりそうな日々を過ごして来た。
その甲斐あって最近は1人で狩りに行くことも許された。
モンスターといっても、魔核のあるモンスター、通称 魔生物 と呼ばれるものと、普通の野生動物がいる。
秘境にあるこの村には、周りには魔生物しかいない。
魔生物と普通の野生動物とは魔核の有無の差があるので、少し解体の仕方が異なるそうだ。
しかし、この世界の自然について、僕がおばあちゃんから学んだところ、全世界に存在する普通の野生動物は全モンスターの割合のうち、1割も満たないらしい。
魔生物が野生動物を餌にすることが多いからだそうだ。
僕はまだほかの土地に行ったことがないが、売られている野生動物の肉は、魔生物と比べて危険も少ないことから都市周辺の、比較的魔生物の訪れる可能性の少ないところで放牧されたりしたもので、厳密には野生動物ではない。
話を元に戻すが、この世界には魔生物の割合がとても大きいので、裕福層でないでない限り、魔生物の肉などを食べていることが普通だそうだ。
何処からか視線を感じる。
村の周辺には大型の魔生物の割合が大きいが、こちらから目視できない所にいるということは中型魔生物、もしくはまだ子供の大型魔生物だろう。
僕はすぐに魔法 『サーチ 』を発動する。
魔生物は左後方に3体、右前方に2体いる。どうやら挟まれているようだ。
自身に身体強化魔法をかける。獲物は傷をあまりつけずに討伐したい。
魔法で『風の刃』 を発現させるために、周囲距離50メートルになるまで周囲の魔力を危機感知されない程度に濃くする。
5体が一斉に距離50メートルをきる。
僕はすぐさま『ウインドカッター』を発現させた。
5体の気配が消えた。
すぐさま確認しに行くと、獲物は中型魔生物のアースフォックスだった。
僕は満足して5体のアースフォックスを異空間収納に入れる。
そろそろ帰ろうかと思い村の方向に足を進める。
突然周囲に突風が吹く。
僕は目を細めてその正体を探った………ワイバーン。
この村の周辺にドラゴンがいることは日常だ。
しかし、下竜種であるワイバーンでさえも、村の人々が討伐するには最低5人は必要だ。
アドレンじいちゃんたちのような特別な以外は。
僕はこのままじゃやられると思い、逃げ出した。
あれからどのくらい逃げただろう。
未だにワイバーンは追いかけてくる。
体力もそろそろ限界だ。
どうしようかと焦っていると、9年ぶりに脳内に声が響いた。
「偽造ステータスから元のステータスに変更しますか?」
その手があったとばかり、僕は周囲に人がいないことを確認し、ステータスを変更した。
途端にステータスの変化から力が湧き上がってくる。
僕は思い切りの魔力を練ってワイバーンにぶつけた。
「ウ、ウォーターインパクトぉぉー!」
ワイバーンの体内の水分が膨張し、ワイバーンはシャボン玉のように、破裂した。
「……やっちまったー。なんて勿体無い…」
いくら焦っていたからといって、これはないだろう。
ワイバーンの肉は勿論、体にも血の雨が降った。勿体無いことをしてしまったものである。自分の未熟さを感じながら、僕はトボトボと村に戻った。
「ケイン!一体何があったんだい!血で真っ赤っかじゃないか!」
おばあちゃんがかけよってきた。
「狩りを終えて帰ってこようとしたら途中でワイバーンに追いかけられた。」
「ワイバーンだって⁈そんなこと…… で、怪我はなかったのかい?」
「一応、無傷だったよ。でもワイバーンを破裂させちゃって肉も食べられなくしちゃった。ごめんなさい…」
「このバカ!肉の心配をするバカ頑張るよ何処にいるんだい!下手したら命をも落としかねないのに…もう少し自分のやったことを反省するべきだよ。本当にこの子はまったく。目を離したらいつも危ない目に自分から飛び込んで!一週間狩りに行くのは禁止だよ!わかったね!」
怖い…ワイバーンよりも怖いモンスターがここにいたよ…
「返事は?」
「はっ、はい!」
まさに蛇に睨まれた蛙のように僕は縮こまった。
「それにしても爆発音は聞こえなかったよ。一体どれだけ遠くまで行ったんだい?」
「村から約1キロのところだよ。爆発魔法は使ったら地形が変化するから、ワイバーンので体内にある水を膨張させてワイバーンを破裂させたんだよ。」
あれ?なんでおばあちゃん固まってるんだ?
「…あんたそれ、アドレンから習ったのかい?」
「いや、自分で作った。」
「………まったく、なんて子だよお前は。外の世界には連れ出したくないねぇ。」
そういうおばあちゃんの顔は呆れながらも少し嬉しそうだった。
「で、狩りの成果は?」
僕は異空間収納からアースフォックス5体を取り出した。おばあちゃんは本日2度目のの呆れ顔をしていた。
僕が目立つのが嫌いなことをティスおばあちゃんは知っていたので、いつも異空間収納から僕が取り出した獲物は、一匹を除いて全てティスおばあちゃんが自分の異空間収納に入れてくれている。
それにより未だに僕が目立つことはない。
その夜、おじいちゃんが帰ってきて、ラーガおじさんとマカおばさんも来て、一緒に夕食をとった。
今日起こったことはおばあちゃんから3人に伝わり、本日2度目のお説教をくらい、ペナルティとしてラーガおじさんの訓練の時間が増え、メニューが厳しくなり、オリジナル魔法の練習時間が大幅に減ってしまった。
これには僕も大きなショックを受け、4人を少し恨みながら部屋に篭った。
そしてステータスを偽造ステータスに変えるのを忘れていたので変更して、寝ることにした。
今日の1日を振り返り、ワイバーン討伐の際に焦ってしまったことを反省して、僕は夢の世界へと向かった。