ほこら
わたしの家の近くに祠なのか小さくとも神社なのか、あかるい朱のちいさな橋の欄干と、同じ朱の格子が見えるのを近くに来たことのあるひとならば知っている方もいるでしょう。幼子の折、わたしもそこの附近を通ったことがありますが、あのときは妙にざわついて幼心に近寄ってはならぬと思ったものです。
そんな祠ですが、わたしは薄暗い昼間、その祠のもとへ行きました。丁度附近に用があったのです。不思議なことにそこは封鎖が―じつはまわりを鎖で封鎖してある祠だったのですが―解けていて、誰でも入れるようになっていたのです。
何故その封鎖が解けていたのかと考える余裕のない程わたしは夢心地でした。なんだか気分もすぐれないような心持でした。幼子の頃の記憶が行ってはならぬと抑止してくれなければ、危うくいってしまう、そんな感じでした。それをなんとか踏みとどまり、祠に目を遣りますと、何者かがこちらを見ているように思えました。無論そこは本来封鎖された場所なのですから、誰かが立ち入る訳がありません。誰だったのか、姿も見えぬ視線は実に恐ろしいものです。
それからなんとかしてわたしは家に戻りました。着いたのが家族のいない時間でたすかりました、屹度わたしは酷い顔をしていたでしょうからね。
「御話をしましょう」
「あの祠で」
「沢山の御話」
「なにを話そうか」
「蜒輔◆縺。縺ョ豁サ繧薙□譎ゅ・隧ア繧偵@繧医≧縺…」
家について安心したのもつかの間。声が、しました。それが幻聴だったのかは知る由もありません。ですが判然とわたしの耳に届きました。アア最後の声は何と云ったのか、知りたくもありません。男か女か、幼子の声の様でした。一人か大勢か、それも判りません。わたしは唯々去れよ去れよと祈るばかりでした。
祠はその後また封鎖されておりましたので、再び気味の悪い声を聴くことも、視線を感じることもありませんでした。