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1話 目覚めの時

「なぁ、暉!昨日のニュース見たか?」

「昨日のって?」

「ほらあっただろ?超能力者は本当にいるって!」

「またその話か...そんなもんただのトリックに決まってる。」

昼休みが始まって早々、教室中が一つの話題で賑わう。その話題とは、超能力者の存在についてだった。暉もそのニュースを見てはいたが、大して本気にしていなかった。この騒ぎも物珍しげと言うよりは不安さを表しているようなものだった。

「はぁ〜...俺も超能力とか欲しいぜ全く!そうすりゃ女の子にチヤホヤされるかもしれねぇしさ!」

「人間性磨けよ。その方が数倍長持ちする。」

「つまんねぇこと言うよな、暉は。」

「そうか?当たり前の事しか言ってないよ。」

暉はそう言うと教室を出た。テスト期間で昼から授業が無いからだ。それに伴ってアルバイトも早めのシフトに入っているから急がねばならなかった。校門のすぐ側のバス停でバスを待つ間、ニュースを閲覧する。どの報道機関も超能力者出現に関するニュースを取り上げている。テレビに切り替えても同じ様子だった。超能力者に関して討論する番組まであり、評論家や政治家がただただ口喧嘩しているようにしか見えない様子が映されている。

「どこもかしこも、頭がおかしいだろ...」

バスがやって来たのに気づき、乗り込む。バス内の乗客も超能力者の話ばかりしている。それだけ社会に与える影響が大きい物なのだと暉もようやく気づきたが、同時に居心地の悪さも感じていた。アルバイト先付近のバス停で降車すると、急いで店のドアの鍵を開けた。どうやら他の店員は来ていないらしく、暉はここぞとばかりに作業を始めた。この店はパソコン用の部品を販売しているが、市場に流通している物よりもカスタム品を中心に取り扱っている。暉はそこでカスタマイズスタッフとして働いている。要は客の注文に合わせてパーツを改造するスタッフである。

「納品が明後日...余裕で間に合うんじゃないか?」

発注書を一通り読み直し、作業に取り掛かる。基盤についているファンを取り外し、同規格の新型に取り替える。使われているチップも客の求めるスペックに合わせて入れ替えていく。かなり神経を使う作業で、少しのミスで使い物にならなくなる。一度失敗すると初めからやり直しに、なんて事も少なくない。本来この作業には専用の資格が必要なのだそうだが、暉は過去にそれを取得しているお陰で一人でも行えた。知識も経験もそれなりにある。完成させるのも時間の問題だ。

「やぁ悪いねー!遅くなっちゃったよ!」

眼鏡をかけた男が入って来た。この店のオーナー兼店長だ。

「大きな声を出さないで下さい、気が散ります」

暉が苛立ち混じりに呟く。店長は苦笑しながら彼の前に座る。

「おっと...済まなかった、これは。どんな調子だい?」

「納品までには間に合いますよ。今日には完成出来ると思うんで。」

「君は手際がいいからねぇ...もうそろそろ正社員登用とかもしたいんだけど」

「卒業するまでにやりたい事が見つからなかったら考えます。」

「そうも言ってられなくなるよ?そう言えば昨日のニュース見たかい?」

ここでも超能力者の話。暉はもう耐えきれなくなり、作業の手を止めた。

「どいつもこいつもその話ばっかり...何なんですか?」

「んー...僕の聞いた話は多分君も興味ありそうだなって思うけどなぁ。何でも、人が超能力に目覚めると自我を無くすっていうじゃないか。」

「自我をなくす?」

「昨日見つかった超能力者のニュースには続きがあってね。最初は警察官の質問に答えられたけど、段々喋れなくなって...最終的には獣の如き唸り声を上げて大暴れした後逃げたらしいよ。」

「何でそれもニュースにしないんですか?」

「僕が思うに不安を煽りたくないからじゃないかな?数年前にアメリカとロシアで超能力者集団によるテロがあっただろう?アレの影響かもね。」

落ち着いたのか、暉はようやく作業に戻った。ただし、ペースはかなり落としている。

「でもアレはテロリストによる犯行だって...超能力者なんて初めて聞きましたよ。」

「僕もそれは去年聞いたよ。」


やがて日が暮れ、夜が訪れ時計は21時を指した。グラフィックボードは無事に完成し、注文者への発送準備を終えて店を出る。家に帰ってテスト勉強をしなければならないがやる気が起こらず、ゲームセンターへ寄り道をしようと普段とは違う道を歩いていた。しかし―。

「何だ、あれは...」

彼は見てしまった。炎上したトラックが縦横無尽に走り、ありとあらゆる物を破壊する様を。しかもそのトラックの上には燃え盛る炎をまとった人間が。どう考えても普通ではない。ただの人間があそこまで燃えていれば死んでいるのが普通だろう。だが、今見ているものは燃えているのが当たり前のようになっている。街路樹はなぎ倒され、自動車は跳ね飛ばされる。ぶつけられた建物は火災発生、まさに地獄そのものだった。

「まずいぞ...!」

燃え盛るトラックが暉へ向かって突っ込む。暉は逃げようと振り返るが、そこにはイヤホンをつけた少女が横断歩道を渡ろうとしていた。携帯電話に意識が集中しているせいでこの異常事態に気づいていないようだった。横断歩道の真ん中に入ろうとした途端、暉は思わず少女を突き飛ばした。

「何を!?」

「馬鹿が!死にたいのか!!」

しかし、それは暉にも言えることだった。不用意に突き飛ばしたお陰で自分がトラックの眼前に躍り出てしまった。

「何だよ、死ぬのか、俺は...!?」

トラックの巨体が暉の体を吹き飛ばした。助けられた少女は絶叫する。しかしすぐに叫びは止まり、今度は絶句した。


「こんな事で、死んで...たまるか!」

トラックが暉から離れていく。いや、押し出されているのだ。暉の周囲が光に包まれ、トラックを跳ね返した。

「何だ...!?何が起きた...?俺は死んだんじゃないのか...?」

無事を確認しようと両手を見ると、周囲を電気が走っていた。何がどうなっているのか分からなかった。それでもこの電気の正体は何となく分かっていた。使い方も。

「何もかもメチャクチャにしやがって...!このッ!!」

横倒しになったトラックに両手を向けると、電気が増幅して雷となって放たれた。迸る閃光がトラックを貫き、爆発させた。これで終わった訳ではなかった。トラックの上に乗っていた人が逃げ出した。暉はこれを見逃さず追い掛ける。元々足の早い暉は容易く犯人に追い付き、拳に雷を纏わせて殴りつけた。

「逃げんなよ!!」

犯人は倒れ、全身に纏った炎も消えた。これで全てが終わった、暉はそう思うと意識が遠のいていくのを感じた。人間に出来る限界を超えた無茶をしたのだ。無理もない話だ。しかし、犯人はすぐに起き上がり、再び炎を纏った。まずい、本当に殺されてしまう―。その時、銃声音がした。連続性のある、この音はマシンガンだろうか。犯人は血を噴き出して倒れた。暉の目には青い髪の少女の姿が映っていた。だが、安心した瞬間に意識が消え、暉はその場に倒れた。

次回予告


暉が目を覚ました場所は病院。そしてそばに座っているのは最後に見た少女。暉は彼女から超能力の覚醒を告げられる。現実は混乱する暉にお構いなしに真実を突きつける。

次回、「サイキッカー」

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