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短編小説

カーくん

作者: 広越 遼


「カー」


 と切なげに鳴くときはお腹が空いているとき。


「ガー」


 と荒々しく鳴くときは怒っているとき。


「ガァ」


 は怒っているときと似ていて少し戸惑うが、嬉しいとき。


「アー」


 と鳴くときは悲しかったり、切なかったりするとき。




 雨の日に、羽根を怪我した烏を拾った。いつもだったら保健所に連絡するか、無視をするのだが、その日は泣ける映画を見た帰りだったから、同情的になっていた。

 拾い上げてやると、烏は「アー」と鳴いた。


 インターネットで調べ尽くしたが、怪我をした烏の治療方法は見当たらなかった。

 まあ、当然だろう。

 まさに濡れ羽色の体を拭いてやる。他の烏と喧嘩でもしたのか、右側の羽根に痛々しい傷があった。


「お前もうダメかもな」


 俺がそう言うと、烏は「ガー」と鳴いた。怒ったのだろうか。

 羽根をちゃんと乾かすと、意外にも烏はいい匂いがした。烏は「ガァガァ」鳴いた。先ほどよりは機嫌が良さそうだ。

 それから少し考えて、昨日の豚肉の余りを差し出してみた。烏は躊躇なくそれをむさぼりだした。あまり品のいい食べ方ではない。

 食べ終わると、また「ガァ」と鳴いた。

 俺は自分の食事も用意しようと、台所の棚からカップめんを取り出した。お湯を入れて五分。烏は俺の行動を不思議そうに眺めていた。


 その日俺が寝ている間も、烏は大人しかった。朝起きたら俺に向かって、「カー」と鳴いてきた。


「腹減ったか? 今スーパー行ってくるから待ってろ」


 烏は今飛べないし、比較的大人しいから留守番させても平気だろうと思った。だらしのない起きたままの格好に、上着を一枚羽織って、財布を手に取った。

 そこでふと思い付いた。


「お前なんか名前付けるか?」


 そう訊くと、烏は首をかしげた。まるで「何のことだ」と問いかけているようだ。


「そうだな。まあ、カーくんでいっか」


 カーくんと名付けた烏は、さらに首をかしげた。




「ただいまカーくん」


 スーパーから戻ると、開口一番そう言ってみた。やっぱり分かってはいないみたいで、無反応だ。しかし、スーパーの袋から豚肉を取り出すと、嬉しそうに「カー」と鳴いた。

 ちなみに牛肉にしなかったのは高かったからで、鶏肉にしなかったのはなんとなくだ。

 カーくんはまた豚肉を貪り出すと、「ガァ」と鳴いた。


「はは、食欲旺盛だな。また腹減ったら言えよ」


 無茶難題を投げかけると、カーくんは「ガァ」と答えた。それからカーくんは羽根を大きく広げた。

 ただ羽根を開いただけだと思った。だけど違った。カーくんの羽根は痛々しかったが、なんと飛ぼうとしたらしい。しかしやはり痛むのか、すぐに「アー」と鳴いて羽根を閉じた。

 俺は野生の回復力が少し心配になり、カーくんの足に紐を付けることにした。窓ガラスにぶつかる鳥を見たことがあったから、こっちの方が安全だと思ったのだ。しかしカーくんは嫌がって、「ガー、ガー」と鳴いていた。

 俺はそれから支度をして、「六時くらいに帰ってくるから」と言って家を出た。




 そんなカーくんとの共同生活が始まって一週間が経った。やり始めたからには完璧にが俺のポリシーだ。飛べるようになるまではしっかり面倒を見ようと思っていた。カーくんも多分、俺に気を許してくれるようになっていた。バラエティー番組を一緒に見て、俺が笑うと、カーくんも「ガァガァ」喜んでくれる。

 今日は奮発をして牛肉と、プレゼントに鈴を買った。小さな黄色い鈴だ。なぜなら今朝起きると、カーくんが羽ばたいていたのだ。紐を外してないから分からないが、カーくんが「ガァガァ」と明るく鳴いていたので、きっともう大丈夫なのだ。

 それならカーくんともお別れだ。野生に帰してあげなければ。

 牛肉は俺の嬉しさ。鈴は俺の淋しさの表れだ。

 多分俺は、この鈴をカーくんに付けることによって、カーくんを独占したいのだろうと思う。野生に帰った後も、カーくんは俺のカーくんだと。そういうところが俺にはある。

 家に帰ると、カーくんが「カー、カー」と鳴いている。お腹が空いているらしい。


「おいおい、少し傲慢ごうまんになってきたんじゃないか?」


 そう言うとカーくんは首を傾げた。

 牛肉を置くと、いつもと違う肉にカーくんは少し戸惑っていた。そして何か感じ取ったのか、感慨深げに「アー」と鳴いた。いつもより少しきれいに、カーくんは牛肉を食べきった。

 それから俺は、カーくんの足から紐を外してやり、変わりに黄色い鈴をくくりつけた。

 鈴を付け終わると、カーくんは羽ばたいて俺の肩に乗ってきた。結構重たい。

 俺はカー君を乗せたまま家を出た。

 外に出ると、カーくんは大きく羽ばたいて飛び上がった。隣の家の屋根まで飛ぶと、俺のことを振り返って見る。


「ついてこないか?」


 そう問いかけられている気がした。

 俺が首を振ると、カーくんは「アー、アー」と何度も鳴いた。俺はそれでもかたくなに首を振った。

 しばらくして、ようやくカーくんもあきらめが付いたらしい。大きく羽根を広げて、空の向こうに飛んでいった。最後に鳴いた、「アァー、アァー」と言うのが、どういう意味だったのか、俺は今でも考えている。




 俺に耳には、あのときの鈴の音がまだ残っている。

鈴と烏と雨というお題を出し合って、友達と二時間で書こう! なんて感じで書いた作品です。お目汚し失礼しましたm(__)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] 二時間で書いたとは思えないクオリティ! 心優しい主人公と可愛いカラスに大変、癒されました! たまにはこういう、ほのぼのしたのも良いなぁ。
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