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4話

 感知役のミリアを先頭に、ガレア、ヒューリと続き、最後尾をリースが守る形で迷宮の最奥部へと走り抜ける。

 

 「前方に大きな魔力を感知、来ます!」


 奥へ奥へとかける足は止めずに、ミリアがこわばった声を上げた。

 その直後、リース達に立ちふさがるようにオーガがその巨体を暗い路地から表す。

 

 「ひっ……!」

 

 初めてみる危険度Bランク以上のモンスターに、ヒューリは思わず小さな悲鳴を漏らした。

 

 「おっさん、頼んだ!」

 

 リースの声に小さく頷くと、ガレアは背にかけた大剣に手をかけミリアの前へと躍り出る。こちらを視認したオーガは、狂笑を浮かべてその巨体から砲撃のような拳をガレアめがけてうちだした。

 だがガレアは顔色ひとつ変えず身を翻して拳をよけると、そのままオーガの懐へと潜りこむ。

 

 「桁違いな力に頼って頭を使わなくなるのは、お前たちモンスターの悪い癖だな」

 

 そのまま、手にした大剣を横薙ぎにオーガの腹へと叩きこんだ。血しぶきを上げながらオーガは吹っ飛び、迷宮の壁へとその半身をめり込ませる。

 

 「脳筋のおっさんには言われたくないと思うけどな」

 

 「確かにその通りだ」

 

 後ろでその光景を眺めていたリースの言葉に、ガレアはふっと苦笑で返した。


 「軽口叩いている暇はありません、冒険者のものだと思われる魔力はこのすぐそこです!」

 

 オーガが完全に沈黙しているのを確かめたミリアは、再び迷宮の奥へと足を踏み出す。三人も周囲を警戒しつつミリアの後へと続いていく。


 「まずいです、冒険者はゆっくりと動いているようですが、その周囲から三体のオーガが迫ってきています」

 

 「この周辺に他のオーガは?」

 

 「いません。残りは三体ずつ、イレーネさんとライオスさんの付近にいるようです」

 

 ミリアの返答にリースはわかったと答えると、脚に魔力を込め走る速度をあげる。

 

 「ここまでくれば俺の感知でも場所がわかる。おっさん、二人を頼んだぞ」

 

 「任せられた。班長も気をつけろ、なんて言うのは余計なお世話か」

 

 ガレアの言葉にニヤリと笑みを浮かべると、リースは一人迷宮の奥へと向かう。




 

 「……見えた」

 

 ミリアのように広範囲に渡る感知はできないが、狭い範囲での精密な感知はリースのほうが得意だ。魔力の流れを視ることができるリースは、今にも枯れそうな弱々しい魔力と、荒々しい大きな魔力の塊をその目に捉える。

 オーガと冒険者の位置を確認したリースは、腰にぶら下げた鞘から青く透き通る細身の剣を抜き放った。

 

 まだオーガはリースの接近には気づいておらず、目の前の弱りきった獲物に夢中のようだ。強化した脚で地面を蹴り、猛然と背を向けるオーガへ迫る。急速に近づいてくる気配に気づいたオーガが振り向いた時にはすでに遅く、その首筋から血しぶきを撒き散らした。

 

 「まず一匹」

 

 背後で倒れいくオーガには目もくれず、そのまま止まることなく先へと進む。その先で瀕死の冒険者がもう一匹のオーガに壁まで追い詰められているのを発見する。

 息も絶え絶えの冒険者は、それでも必死に抵抗したようで、抉れた地面とオーガの右腕に刻まれた傷跡が彼の奮闘を物語っていた。

 しかし、冒険者はこれまでと諦めるかのように、すでに壁に背をあずけて祈るかのように目をつむっている。

 

 その身体を叩き潰そうと、オーガが拳を振り上げた。

 

 「残念、ちょっと遅かったな」

  

 しかし、振りぬかれた腕は冒険者にたどり着くことはなく、代わりにぼとりと音を立てて地面へと転がった。

 

 「よく頑張ったな、もう大丈夫だ」

  

 衝撃に備えてぎゅっと固く目を結んだ冒険者を、オーガからかばうようにリースが立ちはだかる。

 腕を切り落とされたオーガは、絶叫を上げながら怒りに目を輝かせ地面を揺らした。

 

 残った腕を怒りに任せ、自分の腕を切り落としたリースへと叩きこむ。

 リースは焦った様子もなく、真っ向から拳の前に手をかざした。 

 

 「クリスタルランス」

 

 リースの手のひらから生み出された水晶が槍の形をなし、襲い来るオーガの腕を内側から刺し貫いて行く。

 

 「ガアアアアァァァァ!!!……ガフッ」

 

 水晶槍に残った腕も穴だらけにされ、再びオーガは絶叫を上げた。だがすぐに、空気が漏れるような音ともに沈黙する。

オーガの喉元を切り裂いた細剣から血を振り払って、リースは鞘へと剣を収めた。

 

 「特救班です。あなた達を助けに来ました」

 

 改めて背後の冒険者へと向き直り、手を差し伸べる。冒険者は助かった事を理解すると安堵の笑みを浮かべ、その瞳からは涙がこぼれた。だが、次の瞬間、再びその目が恐怖に見開かれる。

 

 「危ない!」

  

 冒険者の叫びとと共に、暗がりに見を隠していたオーガが、剣を収めたリースを見て背後から奇襲をしかけた。

しかしその攻撃がリースに届く前に、地面から生えた二本の水晶槍がオーガの胴体を串刺しにして身動きを封じる。

 

 「お見事」

 

 ミリア達とともに追いついたガレアが、流れるような剣裁きで水晶に動きを封じられたオーガの首を地面へと落とした。

 

 「す、すごい……」

 

 一連の流れをみていたヒューリが、感嘆の声を漏らす。


 ミリア達と冒険者の無事を確認し、リースは小さく笑みを浮かべるとテレパスを起動する。

 

 「イレーネ、ライオス。こっちは終わったぞ」

 

 『こちらライオス、冒険者を保護したよ。みっちゃんの指示にあった三体のオーガの討伐も完了』

 

 『私もオーガ二匹は落としたんだけど、肝心の冒険者がまだ……っと、ちょっと待って』

 

 数秒の沈黙の後、再びイレーネからテレパスが届く。

 

 『標的発見、報告にあった冒険者もみつけたわ』

 

 それを聞いてリースも小さく口元に安堵の笑みを浮かべる。

 

 『事前にあった報告どおり、対象は通常体のオーガ。武装はないわね。みっちゃんの感知どおりならこいつで最後かしら?』

 

 「あぁ、こっちで四体、ライオスが三体、イレーネがすでに二体倒してるみたいだからそいつで終わりだ」

 

 『了解、殲滅する』 

 

 戦闘態勢に入ったイレーネがテレパスを切り、暫くの間リース達五人の間に沈黙が訪れた。ヒューリと保護された冒険者は、いまだ少し不安そうな顔をしているが、リースたち特救班の面々は、もう終わったとばかりにくつろいだ表情をしている。

 そして数分後、イレーネから再びテレパスが届いた。

 

 『殲滅完了、冒険者も無事保護』

 

 「了解、ライオスとイレーネは周りを警戒しながら、ミリアの指示に従って俺たちと合流してくれ」

 

 『『了解』』

 

 二人に指示をとばしたリースは、改めて四人に向き直る。 


 「ロデリー迷宮内に取り残された冒険者の保護は完了。現在確認されているBランク以上の危険種もすべて討伐した。みんな、お疲れ様」

 

 その言葉に、この場にいる全員の間に安堵の空気が広がった。



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