クモとチョウチョ
.
一匹のクモがいました。
.
毎日、毎日、毎日、せっせ せっせと巣を張ります。
人間に見つかっては 怒られ、嫌われ、壊されるけど、
それでも せっせと巣を張ります。
.
優しくて、努力家のクモでした。
.
ある日、巣のそばを通りかかった チョウチョが話しかけてきました。
「 あいかわらず、きみは人間に嫌われてるね。そんな見た目だから、仕方がないけどさ 」
そんなことは わかっていました。
.
みにくい外見をしていることも。
気色悪がられていることも。
自分を見ただけで悲鳴をあげる人間がいることも。
.
だから、せっせと巣を張りました。
.
人間が嫌う 蚊 や ハエ や、蛾、ゴキブリ、そんな連中を捕らえることができるように。
少しでも人間の役に立つように。
.
チョウチョは、見た目は美しいけど、
幼虫のときは キャベツを食べたり、みかんの葉を食べたり、人間に迷惑をかけて大きくなります。
成虫になって、美しい姿を見せてはいるけど、
自分ほど 人間の役には立っていないはずだと、クモは思いました。
.
きっと いつか わかってくれる。
.
そう思って、せっせと巣をつくり続けていました。
.
自分は みにくい姿をしているから、せめて人間の役に立つようにと。
気色の悪い姿をしているから、せめて 好かれるように努力しようと。
.
自分にできることを、せっせ せっせと やり続けました。
.
でも、わかってくれる人間は少なくて。
やっぱりクモは嫌われて。怒られて。せっかく つくった巣は いつも壊されて。
.
やがて、クモは巣を張らなくなりました。
.
好かれようとガンバればガンバるほど、嫌われていくのです。
.
そのことに耐えられなくなりました。
悲しくて仕方ありませんでした。
疲れてしまいました。
.
認められない努力。
報われない努力。
それが むなしくない、とは言えなくなりました。
.
「いつか きっと」 と、言えなくなりました。
.
そして、巣を張らなくなったクモは 食べるものが捕れなくなって、
秋の寒い朝、小さく丸まって 死んでしまいました。
.
はじめまして。そして、申し訳ありません。
ご覧いただきまして、ありがとうございます。
不条理オチです。心にもやっとしたイヤなものが残ったかもしれません。
しかし、努力って、こんなものだろうな、と思います。
他人のための努力。
自分のための努力。
何のための努力。
見失ったとき、身体はともかく、人間だって心が死んじゃうよなあ、と思って書いたお話です。