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転校生 ― 十代の衝動 ―  作者: 村松康弘
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俺はしばらくの間、ウインチェスターの凶悪な美貌に魅入っていたが、やがて我に返りカズオに問う。

「お前、このライフルで何をするつもりだ?」M70のつや消しの鋼鉄バレルの銃口が、俺を見つめている。

「・・・明日、長野を立って東京に向かう。・・・そしてゼネラルを雇っている泰治と宗介を、殺る」カズオは冷徹な眼差しを、ウインチェスターと俺に向けている。

(・・・!)俺はある程度予測はしていたが、直接カズオの口から聞くとやはり衝撃的だった。そして心臓の鼓動が激しくなった。

「カズオ、それは危険すぎるじゃねえか!ゼネラルのヤツらがうようよしてる東京に行くなんて、まるで『飛んで火に入る夏の虫』じゃねえか!やめろよ!」俺は危険を承知の上で飛び出そうとするカズオの身と、二度とこの街には戻らない、いや、戻れなくなることを危惧した。

「それはわかっている。・・・だけどこの争いに決着をつけるには、それしかねえんだよ、コウジ」カズオの目には覚悟を決めた人間の強靭さと、底なしの哀しみの光が宿っていた。

俺はため息を吐き出す、沈黙の時が流れてそれに耐えられない俺は、タバコに火を点けた。そして呟く。

「・・・なんとか別の手は考えられねえのか。・・・俺は、俺は、お前が消えちまうのが嫌だ」まるで子供が駄々をこねているようなものだが、俺はそうしてまでもカズオの果し合いを阻止したかったし、何より淋しかった。

「ありがとう、コウジ。・・・俺はこの田舎に来てはじめて本気のダチが出来たと思う。・・・言ってる自分が恥ずかしくなるがな」カズオはソッポを向いてピースに火を点ける。

「女史は・・・なんて言ってんだ」俺は別室でこのやり取りを聞いているかもしれない、奈緒美のことも気になっていた。

「・・・奈緒美にはさんざん止められたし、泣かれたよ。でも俺の気持ちが変わらないんで、あきらめたよ」カズオはヤツらしくもなく、下を向いてボソボソ呟いた。

「いや、俺は違うと思う。女史はあきらめてなんかいねえと思う。カズオの気持ちが変わることをずっと待ち続けてる。カズオが親や兄弟を殺すことをあきらめる、それを待ってると思う。『・・・きっと考えなおしてくれる』って。だからああやって、教室での女史みてえに微笑んでいるのさ」

カズオは煙を吐き出しながら黙り込む。沈黙の時は壁の時計の音が、やけに耳についた。


「・・・SRはトシにあずけとく。いつか、いつか取りに戻れる日が来るまでな。本物のナンバーは俺の部屋にある。トシに言っといてくれよ。・・・それから」と言って、カズオは部屋を出て行き、ギターケースを持ってきた。

「前に見せたろ?キース・リチャーズと同じ、テレキャスカスタム。これはお前にやる。クサいこと言うが友情の印だ」カズオは照れてソッポを向いた。

「それから俺の部屋にあるオーディオ類もやるから、お前の物にしてもいいし処分しても構わな・・・」カズオが言い終わる前に、俺は声を荒げた。

「そんなもんいらねえよ!それじゃまるで、お前が永遠にどっかに行っちまうみてえじゃねえか!・・・俺たちは双子の兄弟じゃねえのか?お前そう言っただろ?・・・兄弟分を置いて、勝手に消えちまうのかよ・・・」俺は喉が詰まってそれ以上、何も言えなくなった。

・・・カズオは強く奥歯を噛みしめている。肩が小刻みに震え、目と鼻の頭が赤くなって、ひとすじだけ涙を流した。その顔を見たら、俺の方が耐えられなくなって涙が出てきた。

「コウジ、もう言うなよ。・・・言わないでくれ」


リビングのドアがパタンと開いた。「あれ、氷も入れないで飲んでいるの?・・・氷とミネラルウォーター、持って来てあげるね」女史の口調はいつも通りだったが、目を赤くしていた。鼻をすすりながらキッチンへ行く。

俺たちは泣き顔を見られたくなくて、あわてて目をこすって涙を拭く。女史が氷の入ったステンレスのアイスペールと、ガラスのピッチャーを運んできた。・・・俺に向かって、『大丈夫だよ、きっと・・・』という微笑みを見せていた。

カズオはソッポを向いたまま、「ありがと」と言って、氷をつまんでグラスにポトリと放り込む。


「・・・先生もひでえじゃねえかよ、なにが『転校生の田中和夫君です』だよ」俺はカズオがやってきた初日のことを思い出して言った。カズオと女史が屈託のない顔で笑った。

「俺はひと目見て、さえない見た目に名前までさえねえ野郎だと思ったぜ」俺がそう言うと、カズオはガラガラ声で笑いながら、「どれだけ俺の本性を隠せるか、がんばってみたんさ。芝居はなかなかキツかったがな」

3人でターキーのグラスを合わせた。俺は(最後の夜になるかもしれない・・・)という気持ちで。


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