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グロリアが神社付近に到着すると園部は降り、手馴れた手つきでSRのエンジンを掛ける。アイドリングが安定したのを確認すると、手で合図して駆けだして行った。
グロリアは静かに動きだす。「トシと知り合いだったんだな」玉井は前方を向いたまま、俺に言う。「はい」それだけ言うと、あとは互いに無言だった。
玉井は途中でタバコに火を点ける、チェリーの香りが漂ってきた。
スタンドに着くとプラチェーンは外されていて、灯油の給油機の近くにSRが停まっていた。
明かりが灯った店内に入る、園部は人数分のコーヒーを持って、テーブルに置いていた。俺は黒いビニールレザーのソファーに腰を下ろす、玉井と園部が向かいに座った。
「なにがあったのか話しな」コーヒーをすすりながら玉井が言った。
俺は状況を詳しく説明する。途中、『ゼネラル企画』の名前が出たとき、玉井は眉をひそめた。俺の説明が終わると、園部がハイライトに火を点け煙を天井に吹き上げる。
「で、カズオはそもそも何者なんだ?」俺は聞かれて少しとまどった、こんなに四六時中一緒にいるのに、俺はヤツの本当の姿は知らないのだ。
「よくわからないんです。ただ、・・・歳は俺のふたつ上だから、トシユキさんと同じ歳です」俺が言うと、「ほう」と園部は眉を上げて、その口の形のままの煙を吐いた。
玉井は立ち上がり、電話のところまで行って受話器を上げる。「夜分すまないね、ちょっと教えてほしいんだが・・・」どこかへ電話をかけているが、そこから先は小声になったのでよく聞きとれなかった。
すぐに受話器を置き、ソファーに戻る。壁時計は2時15分を示していた。・・・5分後、黒電話のベルが鳴る。玉井が取り相槌を打っている。やがて電話を切り、ため息をつきながら戻る。
チェリーに火を点けながら、「ゼネラル企画、だいたい判った」
―――ゼネラル企画の前身は、J&S探偵事務所。今も公に本業は探偵業としているが、近年の過当競争で本業の依頼がめっきり減り、政界や財界からの『黒い仕事』を請け負ったのをきっかけに、今は本業よりもっぱら闇の仕事の方が多いらしい。・・・恐喝・拉致・取立て、そして暗殺。本部、支部とも詳しいことは不明。
「・・・つまり、殺し屋でもあるということだ」玉井は俺と園部を交互に見つめた。・・・最悪の事態が現実になりつつある。俺の心臓は高鳴り、呼吸が荒くなった。
「ヤバいな、カズオ・・・」園部は腕を組んで頭を垂れる。
「この地域のゼネラル企画の、アジトはわかりませんか?」俺は身を乗り出して玉井に聞く。
「それはわかってる、・・・しかし乗りこむのは危険すぎる」店内が沈黙する、重すぎる空気が滞留している感じだ。
「でも、俺は行かないわけにはいきません。危険だからといって、大事なダチを見殺しにはできませんよ!」つい声が大きくなった。
「親父さん、俺も一緒に行くんで、様子を見るだけでも・・・」俺は園部の言葉に驚いた。(・・・トシユキさんにとって、カズオは初対面の人間なのに・・・)
園部は腕組みをほどき、テーブルに手をついた。玉井は目をつぶったまま、しばらく動かない。また重圧な時間が流れる。
やがて玉井は目を開け、ため息まじりで、「・・・仕方ねえな」と、ゼネラル企画の場所を説明した。
園部が壁に掛けられているキーを取り上げ、「親父さん、ミラ借ります」と言って、2人は店を出る。
「トシユキさん、俺につきあってもらってすんません。でも、なんで・・・」暗がりを歩きだしながら、俺は聞いた。
「まあ、とりあえず様子見ってことでさ。・・・お前ひとりで行かせるわけにはいかねえだろ、だいたい足もねえだろ」
俺と園部は、スタンド裏の駐車場に向かう。すぐに「トシ、ちょっと来い」玉井が園部を呼び、戻っていく。園部はプラスチックのケースをぶらさげてきた。「なんだか知らねえけど、車の中に置いとけってさ」
駐車場の隅の、白いミラに乗りこむ。「俺、まだ車の免許はねえんだけどな」園部は言ってエンジンを掛けた。
無性にタバコが吸いたくなって、タバコに火を点けると、「お、ロンピーか、キツいの吸ってやがる」と、園部も火を点けた。
白いミラは市街地を目指して、暗い駐車場を出ていく。




