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転校生 ― 十代の衝動 ―  作者: 村松康弘
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舗装の上の砂粒が見えた、俺は一瞬、今がいつでここがどこか解からず混乱する。うつ伏せから仰向けになる。・・・ようやく事態が飲み込めた。

俺は路上に倒れていて、周りには誰もいない。ローレルもルーチェも消えていた。カズオの大切なSRだけが、スタンドを立てたまま停まっていた。

ゆっくりと上体を起こすと、脳震盪を起こした頭はグルグルと回り、大ハンマーみたいな拳を受けた胃はムカムカしている。苦労して四つん這いになると、吐き気がこみあげてきた。

グルグルと喉を鳴らしてゲロを吐くが、何も食っていないので黄色い胃液しか出てこない。最後には黄色い泡が出てくる。苦いツバを吐き飛ばした。

それでもいくらかマシな気分になり、深呼吸して荒い息を整える。路上に手をついて立ち上がるとめまいがしたが、じきにおさまる。

おそらく俺がぶっ倒れている間に、カズオはあの男たちに連れ去られたのだろう。周囲に何か痕跡がないか見回したが、行方を示すものは何もない。

俺はSRのサイドスタンドを上げて、路肩に押していく。よく見ると近くに大きな神社があって、石造りの塀の近くに植え込みがあった。木と木の間につっこむと目立たなかった。キーを抜いてポケットに入れる。


今夜の襲撃のことを考えはじめる。・・・カズオが『ゼネラル企画』と言っていたのを思い出した。それは会社名であの6人が所属している組織だろうが、名称からして何の商売なのか見当もつかない。

だが、カズオが知っていたということは東京にある会社だろう。・・・親分らしき男は『本部』とも言っていた。ということは支部もあって、この長野にもあるのだろうか。

俺はSRで走ってきた道を引き返すように、歩きはじめた。頭痛もするが脳を揺さぶられたためか、めまいは消えず千鳥足のようにゆっくりしか歩けない。進むほど疲労も重なっていくようだ。

・・・周囲の民家は軒並み明かりがない、車もまったく走って来なかった。腕時計を持っていないから時間は判らないが、多分深夜になってるだろう。

襲撃のことを繰り返し考える。(・・・カズオは東京で何らかのトラブルを起こした。そして誰かから逃れるために、理由はわからないが俺の地元の町に来た。・・・そして誰かから委託を受けたゼネラル企画が、カズオを連れ戻しに来た。・・・連れ戻し?いや、もしかしたら抹殺しに来たんじゃないだろうか?あの男たちに漲っていた殺意は、ただごとではなかった。・・・カズオは殺されるのか!)

考えるほど胸の中がざわめいてくる。今や俺とカズオは言葉にすれば、『親友』と呼べる間柄かもしれない。


思い返してみれば、事実無根の俺を人前で盗人呼ばわりした岸山への制裁にはじまり、山上たちにカンパを強要した高2の竹島たち、そしてさらにカンパの命令元であるチンピラの武井と笠原。

最後には、真奈美の姉をレイプした鴨島兄弟と、罠にはめた柴崎への報復。

すべてカズオとは無関係なのだ。なのにヤツは俺の怒りや苦しみに同調して、行動をともにしてくれた。いや、リードしていたのはむしろカズオだろう・・・。

何か言えば、「俺は反吐が出るほど気にいらねえ野郎は、ぶっ潰す主義だから」のひと言でかたづけるだろう。そういうヤツだ。

・・・そのカズオが襲撃を受けてどこかに連れ去られ、もしかすると抹殺されるかもしれないという状況の中で、相棒の俺は何も出来ずに通りをうろついてるだけだ。

不甲斐ない気持ちが胸いっぱいに広がり、悔し涙を流したまま歩き続ける。


・・・市街地の方向から車のヘッドライトの光芒が見えてくる。車は俺の近くまで来るとなぜか減速した。通過した直後、急ブレーキをかけて停まる。黒いグロリアだ。

助手席のドアが開く、「コウジ!やっぱりコウジか!」振り向くと園部だった。園部は運転席を向き、「やっぱコウジでしたよ、親父さん」と言い、急いで降りてきた。

「相棒とバイクはどうした?」と聞く。「・・・知らないヤツらに襲撃されて、連れ去られちまった、と思います・・・」俺はそれだけ言うと、身体の力が抜けてへたりこんだ。

運転席から玉井が降りてきた。「とりあえず車に乗れ!」俺たちがスタンドを出る時と同じ、心配顔だった。

園部に支えられて後部座席に乗り込む。「いったい、どうしたんだよ」玉井が聞いてくる。「・・・それより2人こそ、どうしてここへ?」俺が聞き返す。

「・・・お前らがうちのスタンドを出て行った時、俺もこいつもなんか胸騒ぎがしてな。で、店終わったら、こいつが心配してるから、少し回ってみるかってことになったのさ。お前を拾ったのはすげえ偶然だぜ」

玉井も園部も、首をねじ曲げて後部座席の俺を見ている。「まあ、うちのスタンドまで行って、詳しいこと聞かせろよ」園部が言う。

「・・・カズオのバイクが、この先の神社の近くに停めたまんまなんですが・・・」言うと、「俺がスタンドまで回送するよ」と園部が言ってくれたので、キーを渡した。


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