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転校生 ― 十代の衝動 ―  作者: 村松康弘
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レギュラーガソリンの給油機の前に停め、サイドスタンドを立ててSRを降りる。

「いらっしゃーい」と言いながら、柄の悪い口ひげの店員が出てきた。(あれ?)俺はその店員が園部だと気づいた。マスクを外して、「トシユキさん、こんばんわ」とあいさつした。

タンクのキャップを外していた園部は振り向き、「お!コウジじゃねえか、珍しいヤツが来やがったな」と意外そうな顔をして、並んで突っ立っているカズオに「友達か?」と聞く。

俺が「そうです」と答えると同時に、カズオは無言でうなづいた。・・・確か園部と同い年のはずだ。

タンクを満タンにして、カズオが現金を払っているとレジ袋を提げた玉井が、スタンドの向こうから歩いてきて、俺たちに気づき近づいてきた。

「こないだの兄ちゃんたちじゃねえか、お礼のつもりで来やがったか」と笑ったが、来た道を一度振り向き、俺たちに怪訝な表情を向ける。

「この手前のバス停に、茶色のローレルが停まっていたが、お前ら知ってるか?」玉井はそう言って、レジ袋から缶コーヒーを出して、俺たちと園部に配る。

「・・・なんか引っかかってきてな、嫌な感じがしたんだよ。・・・お前ら、身に覚えはねえか?」俺とカズオは顔を見合わせた。(・・・いよいよ顔を出しやがったか)カズオの目が言っている。「いや、知らないっすね」俺はとりあえず答える。

会話を聞いていた園部の目つきが険しくなった。「誠龍会じゃないっすか、親父さん」玉井は少し考えた末、「いや、どうもヤクザとは違う感じだったな、だが胡散臭い匂いがしてたな・・・」

カズオは園部から釣りを受け取り、俺たちはSRにまたがる。「それじゃあ、また来ます」そう言った俺に、玉井と園部は「ああ、またよろしくな」と言ったが、心配そうな眼差しをしていた。


スタンドの出口から車道を振り向いたが、バス停には何も停まってはいない。そのまま東へ走りだす。狭い小路を抜けて、駅東口から続いている真っ直ぐな道を東へ向かう。

・・・突然、真後ろに車がついてくる、どこかで待ち伏せしていたようだ。「・・・ローレルだ」カズオが呟く。ローレルはSRのすぐ後ろに張り付き、ジワジワと追い立てる。

チンピラの武井のようなケンカ腰の運転とは違い、冷静に獲物を狙って追いつめてくるような、不気味さが漂っている。

カズオはスロットルを開け、隣の市への大きな架け橋を渡る。スピードは100km/hを超えていた。道路は国道403号に変わり、左に見える小学校を過ぎると、新興工業団地地帯になる。

荒れた舗装道路は、やがて大きく右カーブになり、SRは少し減速して通過すると、突然目の前の交差点を信号無視した車が飛び出してきた。

SRは回避しようと咄嗟に左に倒し、交差点を曲がる。後続のローレルもついてくる。やがて道は狭くなってきて、前方に何かが見えてきた。

狭い道路のふさぐように、幅いっぱいにルーチェが横向きになっていた。右も左もかわすだけの隙間はない。俺たちは完全に袋小路に追い込まれた。


後ろにローレルが停車する、ライトは点灯したままだ。・・・俺たちはSRを降りる。前のルーチェから3人、後ろのローレルからも3人の男が降りてきた。

ルーチェ側の真ん中の男が、カズオの前に進み出る。40代の端正な顔つきの男だ、鼻の横に大きなホクロがある。俺たちを囲む6人の男は、いづれもダークスーツを着ていた。

玉井が言っていたように、ヤクザ者には見えないが、まともな会社員というわけでもなさそうだ。

「ずいぶんと探しましたよ。本部から、長野市付近にもぐりこんでるって連絡がきてからね。・・・なんのつもりで田舎町の中学校なんかに紛れこんだのかは知らないが。手間かけてくれましたね」

男は丁寧な口調で、唇に笑みを浮かべているが、冷徹な目と額に浮いた血管から、本心が読み取れた。

「やっぱりてめえら、ゼネラル企画が来やがったか・・・」カズオは呟くように言うと身構えた。

俺はローレル側の連中に向き直る。3人の男はどいつも隙のない無感情な目で、俺を射抜いてくる。全身からは徹底的な戦意を、かげろうのように湧き立たせている。

(こいつら、ハンパなヤツらじゃねえ・・・)直感すると、背筋に悪寒が走った。

カズオはバタフライナイフを抜き出し一歩踏み出した、途端に左端の男がボール状のなにかを、カズオに投げつける。そいつはガードしたカズオの左腕にぶつかると炸裂した。

粒子の細かい石灰のような粉が煙幕状に広がり、周りが見えなくなる。俺にも降りかかり、そいつが目に入った途端、激痛が走り目を開けていられなくなる。

酸っぱいような匂いが鼻に入り、呼吸も苦しくなる。

「この野郎!」カズオの声が聞こえたのはそこまでで、あとは激しく殴打する音と動きのみを感じた。

俺はなんとか片目だけを開けて、カズオを振り向こうとした瞬間、後ろから強靭な力で羽交い絞めされた。力まかせに抵抗するがびくともしない。

必死にもがいていると、左頬にごついストレートが飛んできた。ハンマーのような拳が俺の頬を振りぬくと、一瞬脳震盪を起こして頭がグラグラした。

回復する間もなくUターンするように、右頬にも飛んでくる。耳がキーンとなって、目の焦点が合わなくなった。

がっくりと頭を垂れた瞬間、みぞおちにドスンと鉛の拳が埋まった。俺の意識は急速に遠のいていった・・・。


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