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半月の光が雑木の藪を照らしだしている。雲のない夜空は明るかった。俺と真奈美は、ヒューム管の上に並んで腰をおろしている。
「・・・俺も真奈美に話したいことがあるんだ」シャツの胸ポケットからロングピースを出して、火を点ける。真奈美は無言のまま、顔だけ俺に向けた。
「姉さんをひどい目に遭わせた3人の男は、俺とカズオがぶっ潰した」
「3人の男って・・・川村と覆面の2人の男のこと?・・・カズオって転校してきた田中くん?」
「そうだよ。川村の本名は柴崎っていうんだ、そいつは左手首を斬り落してやった。・・・覆面の2人は兄弟で、弟のヤツは右手首を叩き潰してやった。・・・その2人は怪我だけじゃなく、精神も破壊されたと思う」
俺はピースをヒューム管の表面で消し、草むらに弾きとばす。
「覆面の兄は、自分の経営してるビデオショップから逃げて俺たちに追われてる時、通りに飛び出して車に轢かれて死んだ。・・・車はそのまま逃げた」
真奈美は口を半開きにして、俺の顔を見つめている。信じられないといった表情だ。
「・・・そして、姉さんや他の女が撮影されたビデオの原版は、ビデオショップもろとも爆破した。・・・全焼したらしいから、消えてなくなっただろう」
真奈美は悲しげな目で、まだ黙って俺を見ている。
「ヤツらに仕返しをしたところで、姉さんの状態がよくなるわけじゃない。ことが起こる前に戻れるわけじゃない。・・・だけど、俺はヤツらが許せなかった。カズオはそんな俺に賛同してくれて、行動を共にしたんだ」クリーム色のパッケージからピースを抜いて、また火を点ける。
「ついでに言うと、真奈美が前に言ってたバイクの覆面は、実はカズオ、その後は俺も加わって2人で行動した。レイプ犯とは無関係だ」
真奈美は俺の話を聞き終わると、悲しげな瞳のままため息をつき、「そう」とだけ呟いた。
5月末の日曜日の夕方、俺が井上家に到着すると、前の道路に停まった4tトラックのリアゲートが閉まり、引越し屋が家族に挨拶しているところだった。
真奈美は、トラックの後ろの紺色シビックの後部ドアを開けて、乗り込もうとしていた。俺に気づくと、無理に作った笑顔を向ける。
俺は2人が好きでよく聴いた洋楽のミュージックテープを、5本ばかり手渡した。
「ありがとう。・・・コウちゃん、元気でね」痛々しい笑顔に涙が浮かぶ。
「ああ、真奈美も元気でな」俺はそう言うと、車内で頭をさげた両親に頭をさげ返す。真由美は乗っていなかった。
シビックを見送る。つきあたりを左に曲がり見えなくなるまで、突っ立っていた。「真奈美、・・・多分、一生会うことはないだろう」ぼんやり考えた。
その足でカズオの住む、町営住宅へ向かう。どんより曇った涼しい日だったので、急な坂道を登っても大して汗は出なかった。
呼び鈴を2回、間を置いて1回鳴らす、少し前に決めた俺たちの合図だ。カチャッとロックが解かれる、ドアを開けると居間に戻るカズオの背中が見える。
俺は居間に入ると、台所の冷蔵庫から勝手にビールを出して、カーペットに座る。
カズオは居間のテーブルの上で、鴨島勇の遺品のリボルバーを分解清掃していた。バラバラにした部品を、オイルを滲みさせたウエスで拭いている。
「女、行っちまったか」カズオはS&Wの部品から目を離さずに言う。「ああ」俺はビールを飲みながら、テーブルの上を眺めていた。
・・・不意にカズオが顔を上げて急いで立ち上がり、居間の窓のレースのカーテンの端から、外を窺う。やがて首をかしげてテーブルに戻る。
「どうしたんだよ?」飲み終わった缶をテーブルに置きながら聞くと、「ん?・・・うん、ここ3日ばかり、誰かに見張られてるような視線を感じるんだよ。こないだは町中にいる時に感じた」
カズオはそう言って、またカーテンの方を見つめる。
「だから護身用にな、こいつを整備してんだよ」言いながら、リボルバーを組み立てていく。最後に空のシリンダーを指で弾くと、カラカラと軽快に回った。
「それなら今夜、そいつを確かめてみようぜ」俺が言った。
半帽にマスクをつけて2人乗りしたSRは、国道を市街地に向かう。日曜日の夜だから道路は空いていた。ガラガラだから尾行は難しいだろう、誰かが尾行けていたとしたら。
とりあえず駅前に出て大通りを北上、406号との交差点を左に曲がり、寺の門前を抜け大学前の交差点を左に曲がり、県庁通りへ出る。
今度は中央通りを走ってみる、路肩にはシャコタンにしたクラウンやセドリック、マークⅡなどが騒々しい音をたてて、女をナンパしているが、怪しい車に尾行けられている気配はない。今のところ。
権堂まで上がってUターンして昭和通りを左折する。・・・武井とバトルした場所だ。(武井は生きているのだろうか、だとしても相当な怪我を負っただろうな)
俺はそんなことを考えながら、周囲への注意は怠らなかった。
しばらく走り、カズオはこないだ無断で停めた『玉井給油所』へ、SRを入れる。「お詫びのしるしにな」振り向きそう言う。




