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転校生 ― 十代の衝動 ―  作者: 村松康弘
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鴨島が構えたリボルバーはS&WのM36、装弾数は5発。小型だがこの至近距離で5発もあれば、素人でも2人を殺せるだろう。

鴨島は勝ち誇った顔で、俺とカズオ交互に銃口を向ける。

「さっきの威勢はねえな、おい。・・・まず帽子とマスクを取れ、左のグレーの野郎から」鴨島は俺を睨み、アゴを突き出す。

俺は不思議と緊張も恐怖も感じない。チンピラとの乱闘から、なにかが切れているみたいだ。戦闘時はいつも冷静というか、どうにでもなれという投げやりな落ち着きがある。

帽子とマスクを取ると、鴨島は意外そうな顔をした。

「なんだてめえ、ガキじゃねえか!・・・ガキのくせしてなめた真似しやがって!・・・じゃあ黒いの、お前も取れ!」鴨島はカズオに銃口を向けながら命令した。

・・・カズオが帽子に手を掛け取ろうとした瞬間、店のドアが開き客が入ってきた。鴨島の視線が一瞬カズオから外れる。

カズオは素早くポケットからバタフライナイフを抜き、回しざま鴨島の右手首を下からえぐる。悲鳴とともにS&Wが暴発する、踊ったリボルバーは鴨島の手を離れ、カウンターにバウンドしてこっちに落ちた。

客は様子を呆然と見ていたが、悲鳴を上げながら外へ飛び出していった。


俺はリボルバーを拾い上げ、鴨島に銃口を向ける。カズオの一閃は鴨島の右手首を深くえぐったようで、左手で押さえている隙間から、鮮血が垂れ流れている。蒼白な顔色に脂汗がビッシリと浮かんできた。

バタフライナイフを構えたままのカズオが、「さあ、どうする」と詰め寄ると、鴨島は突然、カウンターをこっちに押し倒した。台の上の物がぶちまけられ、レジは派手な音を立てて床に叩きつけられる。中の金がそこら中にばらまかれた。

俺たちが後ろに後退してよけている間に、鴨島は奥へ逃げた。一瞬遅れた俺たちは倒れたカウンターをまたぎ越えようとした。すると奥にある背の高い棚が、詰まったビデオとともに倒れてきた。鴨島が裏口から逃げ出して行くのが見える。

散乱したビデオ類を蹴散らし、縦に倒れた棚を押し倒して、俺たちも裏口へ駆け出す。開け放ったままのドアから飛び出すと、車道の30mほど先を、右手首を押さえながら逃げていく鴨島が見えた。

俺はリボルバーを持ったまま、カズオはバタフライナイフを握ったまま、足の速い鴨島を追う。

ヤツはつきあたりのT字路を右に曲がる。一度振り向きながら走っていく、必死の形相で口を開けて喘いでいるのが見えた。少し遅れて俺、カズオとT字路を曲がる。

ヤツとの距離は20mぐらいに縮まっている。年齢の差が出てきたのだろう。真っ直ぐな車道を走りながら、時折鴨島は振り返る。やがて車道は大通りに差し掛かる。

俺たちとの差は15mを切った。鴨島は小刻みに後ろを振り向きながら、大通りに飛び出す。

・・・突然、右から黒い塊がすごいスピードで滑り込んできたと思った瞬間、鴨島は接触すると同時に、高く舞い上がった。黒い塊は車で、ヤツはボンネットにすくい上げられるように衝突したのだ。

ダミー人形のように舞い上がったヤツの身体は、車が通過した直後、頭を下向きにして落ちてくる。路面に接触した瞬間、首が不自然に曲がる。首の骨が折れたのはすぐにわかった。

その後、グシャリと音を立てて全身をアスファルトに叩きつけた。


鴨島を轢いた車は、急ブレーキを踏んで停まる。珍しい2ドアレザートップの黒いクラウンだ。左側のフェンダーミラーが取れて、プラプラしている。

すぐに運転席のドアが開き男が出てきたが、足元がおぼつかない。緊張と興奮で足が震えているのかと思ったが、どうやらそうではない。泥酔状態の千鳥足のようだ。

男は不自然な体勢で倒れている鴨島を見下ろして、呆然と立っている。・・・やがて周囲を見回す。幹線道路は静まりかえり、人も車も音もなかった。

男はクラウンに戻っていく、さっきよりはマシな歩き方をしている。

運転席のドアが閉まると、クラウンは思いがけない行動に出た。バックランプが点き、スピードを上げてバックしてきた。そのまま鴨島の死体に異音を立てて乗り上げる。

後輪が通過するとアクセルを吹かして、前輪も乗り上げる。完全に通過すると、もう少しバックして今度は前進で、鴨島に乗り上げる。・・・とどめのつもりだろう。

通過すると、クラウンはそのまま走り去っていった。


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