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転校生 ― 十代の衝動 ―  作者: 村松康弘
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アダルトビデオショップ『ジャンクタウン』の手前には、中古車屋がある。展示場の隅にSRを停める。

半帽のヘルメットを脱いで、またキャップとマスクの格好になる。

平らな屋根の上の看板はライトアップされている。ジャンクタウンは12坪ほどのプレハブの建物だが、店舗の大きさの割には広い駐車場になっていて、20台ぐらいは停められそうだ。

店の前に3台の車が停まっていて、一番遠いところにシルバーのBMWが停まっている。それが鴨島の車だろう。

駐車場の隅のいたるところに宣伝用のノボリが立って、夜風に揺れている。縁石が切れた出入り口には、黄色い電球の光がくるくる回るように見えるネオン看板が置かれている。

店内入り口まで行くと、防犯カメラが左右からこっちを睨んでいた。

全部の窓のブラインドは下ろされていて、制作会社が配布した新作ビデオのポスターが、内側から貼られている。


カズオが入ってから少し間を置いて店内に入ると、ビデオショップ独特の匂いがしてきた。テープの素材の匂いなのか、集まる性欲の旺盛な男たちの体臭なのか、生ぬるいようなあまり良い匂いとは思えない。

洋楽のダンスミュージックが流れる店内を歩く。テープがぎっしり並んだ背の高い棚は何列にもなっていて、それがパーテーションがわりになっているが、品数が多すぎて通路はすれ違えないほど狭い。

入り口に近い側には各メーカーの新作がずらりと並び、奥に行くほどマニアックな物が並んでいる。

こう見てみるとアダルトビデオと言っても、ジャンルやカテゴリーはさまざまだ。業界では大手になるであろうメーカーのアイドルもの、パッケージが残酷な感じに作っているSMもの、リアルさを出そうとしている痴漢やのぞきもの、マスターベーションもの、白人や黒人女もの、ロリコンにホモにレズにスカトロ・・・

一番奥のコーナーには素人が撮ったスナップを使い、『流出もの』を本物らしく見せているものがあったが、中身はどうだかわからない。

背が高い棚のせいでレジからの死角が多いため、天井にはあちこちにカメラが取り付けられていた。


俺とカズオはそれぞれ別に店内を歩き、ビデオを物色してるような顔で店主の様子を窺っている。

年齢は40ぐらいか、だいぶ後退した額、眼鏡の奥には小ずるそうな細い目、脂っぽい肌に薄い唇、背は高い方だが弟のように太ってはいなかった。

店内には俺たち以外に、3人の客がうろついている。10分ほどしてひとりが何も買わずに出て行った。その内もうひとりがビデオを5、6本抱えて精算して出て行く。

あとのひとりはいい歳をした背の低いおっさんだが、右手に2本のビデオを持ったまま、じっと品物を吟味している。

俺はイライラしていた。ここで客が入ってくれば、また待たなければならない。遠目におっさんを睨んでいると、棚の向こうから来たカズオも同じことを思っていたらしく、目配せで合図を送ってきた。

俺とカズオは両脇からおっさんを挟むように立つ、知らぬ人間からすれば明らかに不快に思う近さだ。そのままじっと見下ろす。

すぐにおっさんは気づいて俺たちを交互に見る。そのまま目を逸らさずにいると、たじろいたおっさんはあわててレジに行き、精算して出て行った。


おっさんを見送った俺たちはレジに近づく、店主は下を向きレジの金を計算している。レジの前に並んで立つ。顔を上げた店主は一瞬怪訝な表情をした。

「強姦ものは・・・」カズオが聞く。「それなら左側から2番目の棚にあるよ」店主は不機嫌そうにアゴで指した。

「お前と弟が出演してるビデオの原版だよ」俺が言うと、鴨島勇は目を見開き凍りついたように固まった。・・・だがすぐに冷酷そうな唇がゆがんだ。

「なにを言ってんだかわからねえな、誰だよお前ら」急にふてぶてしい態度に変わった。俺とカズオを交互に睨む。

「しらばっくれたこと言うなよ。詐欺師の柴崎に50万払って、ヤツがカモにしてホテルに連れてきた女を、お前と弟が強姦してビデオに撮る」俺が言う。

鴨島はニヤニヤしたまま、無言でタバコに火を点けた。カルティエのライターを、気取った仕草でYシャツのポケットにしまう。

「女には『警察にタレこんだらビデオをばらまく』と脅して、泣き寝入りさせてな」カズオはそう言って、カウンターに2本のビデオを放り出した。

「・・・奥の『流出物』の棚にあったぜ、『覆面強姦シリーズ』vol.2までな。・・・これを1本8000円で売ってんだ、何本売ったか知らねえがボロい商売してやがるぜ」

俺はビデオのパッケージを見て、またハラワタが煮えてくる。

「ふん、それがどうした。俺はビデオを売るのが商売だ。柴崎には先行投資してんだ、回収するのは当たり前だ」

いよいよ煮えくり返った俺は、カウンター越しに拳を飛ばす。後ろに後退してかわした鴨島は、素早くカウンターの下に手をつっこんで拳銃を抜き出す。

「言っとくがオモチャじゃねえぞ、てめえらどこの誰だか知らねえが、そこまで知ってんなら生きててもらっちゃ困るな。・・・てめえらの死体の始末なんざ、チンピラにやらせりゃ済むことだしな」

鴨島が銀色の小型のリボルバーの撃鉄を起こすと、シリンダーがカチャリと回った。


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