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月曜日の朝、教室に入るとカズオは、もう席にいた。
今まで通りの『さえない生徒』の風貌に戻っている。茫洋とした学生眼鏡の奥の目と視線が合ったので、俺は思わずニヤリとすると、カズオはまったく表情を変えずに視線を前方に戻した。
(・・・この豹変ぶりは役者並みだな、はたまた二重人格か。・・・やっぱり同一人物とは思えねえな)俺は覇気のないカズオの顔を、しばらく見ていた。
やがて、山上たちが騒々しく教室に入ってくる。あらためてヤツらを見ると、図体ばかりでかいだけで中身は子供にしか見えなかった。
・・・土曜日の1日だけで、俺の精神世界はすっかり変わっちまったように思う。あとは普段と何も変わらない日々が続いていくのだろう・・・。
百瀬女史が教室に入ってくる。日直が「起立、礼」をする。
「おはようございます。・・・今日はみなさんに残念なお知らせがあります」と切り出した。途端に教室がざわめいた。
女史はクラスメイトを見回して、もったいぶった間を置いてから話し出した。
「入院されている副担任の岸山先生ですが、怪我の様子はだいぶ回復されたそうです。・・・しかし、暴漢に襲われたショックで、精神錯乱状態になってしまわれているそうです。・・・医師の先生の判断によると、社会復帰は難しいとのことです。そういう状態ですので大変残念ですが、岸山先生は今月付けで退職されることになりました」教室は静まっている。
「・・・私としても、この学校に20数年も在籍し教壇に立たれた大先輩のご退職を、大変淋しく思います」
女史は寂寥感たっぷりの表情で話したが、言葉も顔もどこかウソくさくて、笑いをこらえるのに苦労した。
(・・・カズオといい女史といい、役者揃いだぜ)周囲を見回してみると、誰もかれも清々しい顔ばかりで神妙な表情は見当たらなかった。
その日の夕方、バスターミナルあたりを歩いていると、ちょうど街からやってきたバスが入ってきた。
降りてきた園部という先輩に遭遇した。前はこの町に住んでたが、今は市街地に引っ越している。・・・多分、旧友にでも会いに来たのだろう。
「お、久しぶりだな、コウジ」園部は街の工業高校に通ってるはずだ。竹島と同じ2年生だ。
「あ、トシユキさん、ご無沙汰してます」ケンカっぱやい性格の人だが、俺は嫌いじゃなかった。群れを作らない一匹狼みたいな人だ。・・・道端で立話になった。
「・・・そういや、いろんなウワサが長野まで聞こえてくるぞ。竹島たちがどっかのバイク野郎に、袋叩きにされたんだってな」
私服通学が認められている工業だから、園部は派手な和柄のアロハにジーンズ姿だった。口ヒゲを生やしているので、どこから見ても高校生に見えない。公の場でも平気でタバコに火を点けている。・・・柄の悪い若者ばかりの町だと思う。
「ああ、そうらしいっすね。俺はつきあいないから、よくは知らないっすけど」
「そうか、まあお前らも気をつけてな。・・・あ、夏にウチの学校の文化祭あるから、そん時来いよ。じゃあな」園部はくわえタバコのまま去っていった。
・・・それから10日後。
俺が昇降口に入ると山上が寄ってきた。いくらかウンザリした、また俺の腕を引っぱっていく。
「わかったから離せよ、学習能力のねえヤツだな」やっぱり山上は、校舎の陰まで行く。キョロキョロと周囲を見回す。
「竹島さんに聞いたんだが・・・」声をひそめて話す。
「お前まだ竹島なんかと関わってんのかよ?」俺は呆れかえった。
「いや、電話が来たんでさ、・・・まあ聞けよ。竹島さんにカンパを命令した誠龍会のチンピラがさ、今度は2人に増えた覆面のヤツらにぶちのめされたんだってさ!・・・それがえらい強いヤツららしくて」
「ふうん」言いながら、俺は笑いをこらえるのが必死だ。
「で、勝手なマネをしたってことで、組を追い出されたらしいぜ」山上は小指をつめるポーズをした。
「ふうん。・・・でも俺には関係ねえ話だな」山上が俺に話す理由が、わからなかった。
「いやー、これからはカンパとかなくなると思うと嬉しくってさー」俺は、どこまでもバカなガキだと思う。
「ふん、それも俺には関係ねえよ」バカバカしくなって、その場を離れた。
下駄箱の上履きには、今日も真奈美のメモはなかった。・・・もう2週間になる。普段はあまり気にもしないが、今日は少し気になった。




