さあ、職を追われるハメになったぞ!どうしてくれる 3
先輩は結局、一度も俺に気がつかず、そのままレストランに入っていってしまった。いっぺん、「千年殺し」でもお見舞いしてやろうかと、急接近を試みたのだが、やめた。先輩が友達と合流したからである。
二人はテーブル席に座り、話し始めた。俺はすぐそばのカウンター席に着く。二人の話し声が聞こえてくる。
「王立の鍛冶職っていったら、給料いいんだろう」
先輩の友達が恨めしそうに言う。青白い顔のヒョロガリだ。筋骨隆々とした先輩とはまったく対照的である。
「まあな、楽な仕事じゃないけどよ」
先輩はさっき買ったはずれ馬券をくるくる丸めて筒を作る。
「なんだ、最近分けのわからない事件が多いそうじゃないか」
「ああ、うちのシンボルの剣が突然直って、地面に突き刺さったりして、親方が面白がって、剣を抜けたもんには賞金を出すとかいうもんだから」
先輩はため息をはきながら筒をヒョロガリに向かって覗き込む
「うちの職場は大変だよ、物好きが集まってきたりしてさ」
俺はカウンター席で、うんうん、そうなんだよと心の中で一人うなづく
「しかしまあ、親方も商売上手というか、強欲というかなんでも金にしちまうからなあ」
それだけじゃないぞ、ピンはねしてるんだ。うちの親方と、俺は一人恨む
先輩はミジンコでも観察するかのように、丸めた馬券でヒョロガリを覗き込む
嫌そうな顔をしながらヒョロガリは
「でも、経営者としては優秀なんだろう。うちの社長なんか、会社倒産させて逃げてそれっきり、給料も未払いだ」
「お前みたいな、なんもできねぇやつなんか雇ってる会社じゃ不思議じゃないだろ」
先輩は意地悪く笑う。ヒョロガリはふんと横を向く
なんだ、あいつニートかよ、先輩の友達がニート、俺は笑いを一人堪える
しかし、この店いつもならすぐ店員が注文取りにくるのに、もう席についてだいぶ時間経つぞ?どうしたんだろ?こちらから声をかけようとした時、衝撃的な言葉が先輩の口から飛び出した。
「まあでも、お前があの剣抜いてくれてよかったよ」