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死神に生を語る  作者: 惷霞 愁灯
7/11

七話 不可避の使命 

放擲された、この感覚はなんなんだろう。いや、本当のことを言えば、はなから信じることなど不可能だったハズなのに。つい、疑いもせずそれをしている。傍から見えないといえど、周りから見れば放浪者にしか見えない。しかし迷っているわけでもない。けれど間違ってるかも分からない。だから私は、何もない何かに頼って歩き続けた。



数十分前――――――

気がつけば、辺りの靄は徐々に薄くなりつつ、よく見れば、さっきまでいた橋の上だと分かった。


「この流れは改心して死神界に帰るのかと思ったんだけどなぁ……」


あまりにも想定していた終わり方からかけ離れていて、少し残念に思った。


「そう。ここは、時間で言えば、午後2時。琴華ちゃんがここに来る、少し前の時間だよ」


「答えになってないし!しかも何かしら、私はtimeスリップでもしたの?」


そう言われて、辺りを見渡すと紅く染まっていた夕刻の景色が、今ではまだ眩い太陽が照りつける架橋の上に居た。人通りも多いとはいかないものの、人影が途絶えることはなさそうだった。


「違うよ。でも、あながち間違いではない気もする……」


「ハッキリして」強めの口調で言った。


「だから、ここは僕の魂で操っている空間なんだけど。実際の空間にも関与していて、こちらからの手だしに応じて、あっちの空間に変化が生じるんだ。例えば、琴華ちゃんがここで膝かっくんをすれば、本当の空間の2時間後に丁度そこに通りかかる人がいきなりこけることになるんだ」


「理解したくない事で満載だね。しかも膝かっくんて」苦笑以外で良い返答がなかった。


多少和やかなか時間が過ぎていったかに思えたが、すぐに終わってしまった。それは、ナディスらしき闇が大きく間を空けてからだった。


「契約者となった君は、死神代行人として僕と一緒に働くんだ」


意気揚々としゃべってはいるが、心に響かないと言うべきか。今更止めるという訳にもいかないだろう事は、なんとなく感じていたが。


「てことは、あなたと一緒に、誰かの死を見届けるってこと?」


「本当はそうなんだけど。僕、死神界から通達が来ちゃったから行かなきゃいけないんだよ。はぁ、行きたくないよ。けどまあ仕方ないし。あ、この子頼むね」


そう言って突拍子もなくナディスが渡したのは、一枚の紙だった。


「ぇ? 」


そこに写っているのは、可愛い系の男の子だった。


「あともう一つ。これだけは伝えとなきゃね」




今――――――



歩いていても分かる。雰囲気というか、伝わってくるはずの人の熱気が無い。全部に霧みたいなバリアでも張られてるかのように。


「ここだ……」


周りと違い、このマンションだけ生気を感じる。こんなのって、死神の力なのかな?

なんかやだなぁ。そう思いつつも、階段を上っていき一番生気が感じるドアのベル(インターホン)を鳴らした。


返事、いや応答がない。恐る恐るドアを叩こうと思ったら、

透けた。






「イヤああああ!!!!!!!!」


一瞬、走馬灯も見えた気がする。怖い。自分が幽霊かと思った。今年最大の恐怖体験だった。生まれてこのかた経験しないと思っていたことを経験すると、人はここまで驚けることを知った。


「し、失礼しまーす」


玄関には沓が一足だけあった。


奥に居ることは分かる。けど足が進まない。なんていうか、殺気みたいなものが伝わってくる。

廊下の突き当りにある一室の扉を開けた。






ちょっと前――――――


「この空間に関与できる対象は、死ぬ予定の人だけなんだよ。だから、もしかするとその人の死を変えることができるかもしれないんだ。僕もそうやってなんどか試してみたけど、やっぱり姿が姿だから、皆、殺してくれって逆に頼まれたりしちゃって……。けど琴華ちゃんならかわいい女の子だし、もしかしたら救えるかも」


救う。この言葉を聞いた時、あまり深くは考えていなかった。それよりも裸の状態で町に戻りたくないから服を返して、と頼んでいたりが頭の多くを占めていたからかもしれない。


「分かったわ。できる限り頑張ってみる」




今――――――


「こ、こんにちは」


軋む音とともに発したその声は、部屋の中心に立っている男の子に届いた。自分より年下らしく、少し可愛い系の子だった。


「おねーさん誰?なんで勝手に人の家あがりこんでるの?訴えるよ」


あまりにも冷たい反応だった。


「あ、もしかしておねーさんあれか。死ぬ前に見える幻覚ってやつ?」


「違うわよ。私は死神代行人。あなたの死を見届けにきたのよ」


「ふーん。ならさっさと死ぬことにするよ」


「と、言いたいところだけどそうにはいかないわ。死なないでほしいから」


「そうか……」


なんかやだなぁ。なんかこう、見下されてる感じが。


「じゃあ、この僕を説得してみてよ。まあ、無理だと思うけど」


「その前に、 あなたはなんで死にたいのか教えて」


張り詰めた空気が漂っている。この男の子も私も、後に引けないカケヒキのようだ。その後、男の子は大きくため息を吐いた。


「……。単純だよ。この世界に嫌気が差しただけだよ。もう見たくないんだ」


「まだ、見てない場所はあると思うけど?」


「どこだってそんなに変わらないよ!それにみんなバカなんだ。どうせ無理なのに」


「何がよ」


「この世界じゃ、何をやっても、しても、許される奴は許される。僕はその逆な存在だからね。何をやっても無理なものは無理なんだよ」


「そういう人は沢山いるよ」


「だから、この世界はバカばっかなんだよ!僕の父さんだってそうさ。みんなそうさ。おねーさんも。世界も」




「僕も」


溜まりに溜まっていた、憤怒の塊が耐えられなくなったようだ。でも……


「バカは……バカなりに一生懸命頑張ってバカなのよ!頑張らず、口だけのあなたなんて《バカ》以下ね!」


一瞬、男の子の目が見開いた。しかし、甘くはなかった。


「なんか、おねーさんに最後会えて良かったよ」


そう言い放ったその瞬間、男の子は窓に向かって猛スピードで突っ込んでいった。私は手を伸ばした。限界まで伸ばした。けれど、届かなかった。

彼が飛び込んだ窓のカーテンが風でたなびいている。私はその場で立てなくなった。



その後すぐに救急車がきた。なんとか見ようと思い、窓に意地で近寄った時、窓の縁に一粒の涙が落ちていた。それを見た私は、それを覆うように、だきしめるように、沢山の涙をながした。



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