四話 橋下の契約 part1
死神は辺りを見渡すと、一つの写真立てを見つけた。その写真に写っているのは女子二人。そのうちの一人は髪がロングで清楚な感じの子。もう一人はさっきまで僕と一緒にいた子。やはり見間違いでは無かった。
「やっぱり……」
該当No.12335――――【人夢琴華は、死神時刻:э8ж5ыфю9死亡。死因:???】あまりにも簡素に感じられた。今までなら、こんなものを見る度に、自分の立ち回りを呪っていた。が今は違う。自分の媒体である上に、僕を救ってくれた大事な人。捨てるわけにはいかない。
「ふぅー」
部屋の入り口から。溜息なのか、風呂上りだからか。息を吐きながら琴華ちゃんが入ってきた。
「あのー……」
と言いかけた途端に琴華ちゃんの方が話し始めた。
「ごめん死神さん。さっきは言い過ぎたね。人、ッじゃなくて死神の気も知らないで」
「あ、いや僕の方こそ結果的に居座ってるし、迷惑かけてるし」
「いいよ、別に。じゃ、お互い様ってことで、君がちゃんと元の所に戻るまで、よろしく! 今更だけど…… 私は人夢琴華っていいます。死神さんは?」
とても嬉しかった。最初は心の底から嫌われてると思っていたが、とんとん拍子に話が進んでいくことが僕にとっても、多分琴華ちゃんにとっても辛いことではないのだと信じれた。
「あ、僕はナディスって言います」
「ナディス。うん分かった。これからよろしくね!」
この時初めて笑顔を見たかもしれない。けど、いや、だからこそ。この笑顔に、さっきのことをは伝えられない。
だからこそ。僕が守ってみせる。
次の日――――――
朝から僕は、琴華ちゃんの胸ポケに入っていた。出かける前になんとか無理を言って―――ペン越しでも感触を感じられる僕に対して凄く怒っていたが―――入れてもらった。ここなら、何かあっても防ぐことが出来るかもしれないと思ったからだ。
けど、不安なのには変わりない。しかし、様子がおかしいのは僕だけじゃなかった。琴華ちゃんもなんだか、ソワソワしていた。気のせいだと思ったから言うのを止めたけど。
「ねぇナディス、あなたが宿っているこのペン。元の形に戻せない?」
「え? う~ん…… 多分僕が寝るか、死ぬかすれば、その間は元の形に戻ると思うよ。」
「良かった。ねえ、今日の夕方の3時から6時の間中寝ててくれる? 私が起こすまで」
死「なんで?」
「そんなの私の自由でしょ! でも、学校行ってる間はいいわよ。自由にしてて」
モジモジしてると思ったらいきなり怒られて。あれかな?ツンデレってやつかな?
「寝るんだからね。死んじゃだめよ。これからあなたに、教えるつもりなんだから。あなたの生きる必要性を。」
「うん」
どうしよう。これは結構マズイよ。僕が寝ている間に琴華ちゃんが死んじゃったら。時間も夕方だし。でも、嘘はいけないし……けど、死にそうになったら、何かしらのサインはあるはずだから。今は静かにそれを待とう。
そうこうしていると、時間は流れていき、解決策もでないまま眠りにつくことになってしまった。
――――――
どこからか、水の流れる音がする。同じようだが、決して単調ではない。不思議な音。その中に僅かに僕を呼ぶ声がする。その声で徐々に目が冴えていく。
「……ぃす、ディス! ナディス‼‼‼」
死「な、なに?」
起きたての僕の(ペン)近くには琴華ちゃんの汗だくの顔があった。
「へっ。ど、どうしたの?用事は お、終わったの?」
流石に、可愛い女の子の顔がこなに近いとなると、緊張してしまう。死神だって緊張はする。
「ハァ、ハァ。ナディス! 下見なさい下!」
何かと思い、下を覗くと、流れの早い川が、ゴウゴウと音を立てて流れていた。左手で僕をつかみ、右手で橋の淵を必死に掴んでいる。
死「な、なんでこうなってるの?」
「説明は後。どうにかならないの? この状況!」
「無理だよ。僕の実体は、死神界にあるんだ。この世界には、僕の精神しか存在してないんだよ!」
「ハァ、私の方が先に死ぬなんて、いいザマね」
息が荒くなっていき、右手がプルプルと震え始めた。琴華ちゃんの目から光が消えていく。
「そんなこと言わないでよ!!!!!」
「もう無理、限界……っ!」
と同時に淵から小指と親指が離れてしまい。実質、指3本で体を支えている。そう長く持たないことは分かっていた。 この判断はしたくはなかったが、あまりにも状況が悪過ぎる。だから僕は琴華ちゃんに告げた。
「仕方ない、琴華ちゃん! 唇を噛んで血を出して、僕にキスして。」
「ハァ、ハァ、もうこんな時に何言ってるの?」
話すことさえ苦、といった顔を此方に向けてくる。
「いいから早く! 死んじゃうよ! あの時言ったじゃないか。教えてくれるって! 僕に生きる意味を!!!」
「わ、わかったわよ」
そうして琴華ちゃん両目をおもいっきり瞑り、歯で唇を噛んだ。すると赤黒い血がぷっくりと出てきた。そしておもむろに、左手の中のペンのストラップにキスをした。
「契約成立」
その瞬間、まるで出会った日のような黒い輝きが辺りを包んだ。その眩しさに目をくらまし
「あっ!!!!」
そして、そのまま僕と琴華ちゃんはそのまま川に向かって落ちていった。