三話 死神の葛藤
私の部屋の明かりがつけられた。彩りは主にピンクで、ところどころにぬいぐるみなどの小物が置いてある。女の子の理想の部屋だと思う。琴華自身、昔からシル○○ニアファミリー系の玩具でよく遊んでいた。その延長線上に自分の部屋が置かれても可笑しくは無い。が、自分のキャラに合わないので友達を入れたことはない。まさか家族以外の初めての入室が死神になるなんて。
「死神、生きてるの?」
ペンを見つめるとゆっくりと骸骨の顎が動いた。
「こんな僕でも捨てないでくれるの? こんな僕でも生きる意味がある……の?」
呆れた。まだそんなことを考えていたのかと。これは少しキツく言うべきか。そう思い、ペンを強く握り顔に近づけた。
「ねぇ死神、あなた死神でしょ!? 《死》の神なんでしょ!ならあなたが一番《生》の素晴らしさを知ってるハズでしょ!! それなのに死にたいなんて、あなたは本当に死神なの!?」
またもや返ってくる言葉はなかった。深く溜息をついた。これ以上言っても結果は変わらないかと思い、死神の対処より先に自分の事を終わらせることにした。
「私これからお風呂と、夕ご飯だから。ペン立てで静かにしといてね。」
「はい……」
返事をしたことにすこし突っ込みたいところもあったが、やめておいた。ヘアを出る時、あのペンを折ったらあの死神は死んでしまうのか。なんて考えてみたけど、本当の所有者をすっかり忘れていたことに気がついた。そして芋蔓のように告白のことを思い出し、ドアを閉める勢いが遅くなった。
お風呂に浸かってる時私はふと思った。なぜ死神は私のところに来たのだろうかと。
ふぅー、と息を吐くとお湯の表面に波ができた。
「同じ波は出来ない、か」
正直なところ、死にたがってる人(ではなく死神だけど)なんて初めてなので、思ったことをそのまま言い過ぎたかも、と少し反省した。鼻までお風呂に浸かり、泡を吐いてもすぐに消えてしまう。
「よし!」
と、勢いよく浴槽からあがり、脱衣所からタオルを取った。こういう時は髪が短くて楽だと実感する。死神に生きて元の場所に帰れるように、謙士君にしっかり返事を。体を拭き終わり、再び死神のもとへ向かった。
一方、少し前――――
気が付いたら、人間に語られている。確かに、死にたいという気持ちは薄れてきているのかもしれない。けど、それじゃここに逃げてきた意味がなくなってしまう。そんな葛藤の中、死神は何かに気がついたように、それを取り出した。
「あっ! デスメールが来てる。もしかして、誰かが僕のこと通報したのかな。やだなぁ、叱られるのは。本当に戻らなきゃだめかな」
デスメールとは、人間が作り出した『ケータイ』という技術を真似て作ったもので、普段死神間の連絡や死神界での共通連絡、業務連絡などが送受信されている。開いた先にあったのは、予定死亡者の名前だった。
「業務連絡か……よくはないけど、とりあえずまだ見つかってないよね」
画面をスクロールしていくと老若男女問わず、様々な人間の顔画像が並んでいた。普段はここにいる人全員を死神界に連れて行かなければならない。そのうちの一人に見覚えがあるものがあった。
「ん? この子どっかで見たことあるような?」
その名前の欄ナンバー12335には(人夢 琴華)そう、しっかり書かれていた。