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線路少女は笑わない 5 

 一週間後の早朝、僕はいろんな荷物を詰め込んだリュックサックを背負って自転車にまたがった。

『サンダリオン弐号』自転車には小学生特有の粗い掘方で刻まれたと思われる文字が刻んである。我ながらひどいセンスだと思う。これがいわゆる中二病といわれる類のものなのだろうか。そう自分の過去を恥ずかしく思いながら見送る父に手を振り自宅を発った。

 この村には何もないといわれるが伝承ぐらいは存在する。村に外れに古びた居館がある。ここでは戦国時代に北条氏と鎌倉公方との戦が繰り広げられていたらしく、その居館はその当時に北条氏が営んでいたものらしい、今では「兵どもが夢の跡」であるが。この村は狭い。だから名所といっても特にないので無意識に自転車をこいでいるとすぐに目的地の廃駅についてしまう。時刻は八時十五分。

「おはようございます」

彼女は丁寧に会釈した。

「ああ、うん。おはよう。本当に行くんだね?」

僕は彼女に最終確認をした。聞くまでもなく答えは分かる。彼女は僕の心を読んだとばかりに頷いた。

「じゃあ行こうか」

彼女は無言で自転車の荷台に乗った。


 ここ都村から大都市まで約三百kmの距離がある。到底一日で行ける距離ではない。だからあらかじめいろいろな準備をしてきた。まずは一週間分の食料、そして夜道用の懐中電灯、いざという時のための救急セット。持つべきものはすべて携えて僕たちはこの村の外を目指した。まず目指すのは近くでは一番大きな町「南部町」だ。近いとはいっても自転車では二時間ほどかかる。神七川県といってもここら辺一帯は都心よりも甲斐のほうが近く、横濱あたりと比べると南部町も田舎の部類に入る。しかれど都村から見ればどうであろうか。南部町の人口は都村のちょうど五百倍に当たる。また大型スーパーである伊藤七日堂もあり、我が家も大きな買い物をするときはそこに行く。まさに僕たちにとっての都会は南部町なのである。

「隼人君って結構説明っぽいんですね。学校では書記係やってるイメージです」

彼女は自転車の荷台で僕の背中に身を委ねながら言った。

「そうかな。まあ友達にもよく言われるけどね。でも書記係じゃないよ」

「じゃあ何なのです。」

「副委員長だよ。対して仕事もないしね。それにうちの学校は生徒数がかなり少ないからね、クラスの係なんて三つしかないんだ」

「この村って結構田舎なんですね。」

彼女は村の景色を見ながら風に流されそうなセミロングの髪を手で抑えて言う。

「まあね。君が思っている以上にこの村は田舎だよ。まあそれがいいんだけどね」

 それから僕たちは互いの学校のことについて話した。旧式の自転車に乗って独り言をいう男、それは傍から見るとかなり滑稽な光景に見えるのではないだろうか。僕はそのことが残念でたまらない、彼女は僕以外の誰にも見えないのだ。

「でも私は満足ですよ」

線路少女は突如として荷台から顔をのぞかせた。まったく重さは感じられない。

「隼人君を独り占めできるから」


 八時に十分に都駅を出発して二時間、僕たちは南部町に到着した。

「やっと着いたか、ここまでだけでもなかなか遠いね」

「はい、結構疲れました」

 僕たちは南部町に着くとすぐに山科川の河川敷に座り込んだ。この辺りは山から下りてくる涼風のおかげで結構涼しい。先ほど通った南部町の市街地は平日の朝ということで閑散としていた。町にいても何のあてもないので結局この河川敷に落ち着いた。少女は少し疲れた顔で河川敷の堤防に腰を下ろした。

「おなかすきました」

少女は座るとおなかをおさえて呟いた。腕時計を見ると時計はちょうど十一時を指していた。幽霊でもおなかは空くらしい。

「そうだね、まだまだ先も長いしそろそろご飯にしようか」

僕は横に置いておいたリュックサックから二つの弁当箱を取り出した。

「これ隼人君が作ったのですか」

「うんまあ、一応そうだよ」

僕がそういうと彼女はすぐに弁当を食べ始めた。よほどおなかが空いていたのだろう。

「とてもおいしいです」

彼女は白い肌をぽっと赤くして呟いた。自慢じゃないけど料理には自信があった。父母共に仕事をしているため、二人の仕事が忙しいときは僕が夕飯を作っているのだ。

「あの、隼人くん」

「どうかした?何かまずかった?」

「いえ、そうではなくて」

彼女は声を詰まらせた。何か言いにくいことなのだろうか。彼女はおにぎりを一口頬張ると再び口を開いた。

「隼人君はどうして私のためにここまでしてくれるのですか?」

 それは僕もわからない、それが僕にとってのこの旅の目的なのだから。

 正直に言うと彼女と初めて出会った時から何か惹かれるものはあった。でもそれが何であるのかは今もわからない。だから彼女からの協力の依頼はおもわぬ僥倖(ぎょうこう)であった。僕にとって彼女の祖母を探すことなどただの口実に過ぎない。僕が彼女の何に惹かれたのか、それを探すことが僕の旅なのである。でも彼女にはそんなこと言えるはずがなかった。僕は結局答えを適当にごまかして南部町を発った。


6/4加筆修正

これで半分です

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