線路少女は笑わない 2
我が家の仕事の都合上、この季節はあまり仕事が多くない。だから結構休みも多くなる。
その時はよく駅に行く。特に用事もない。ただの暇つぶしだ。
ここは田舎だ。だから特に娯楽もない。
だから今日も僕は駅に向かう。近くの商店で駄菓子を買って駅に向かう。
駅前についたところで誰も人影はない。
誰が十年も昔に廃れた駅に近づこうか。しかし、駅の構内に入るとそこには僕以外の人影が一つ。少女、その少女は昨日と同じように線路上に立っていた、昨日と同じ服装、同じ立ち位置で。
少女は僕が構内に入ってくる足音に気付いたようでこちらを振り向いた。
「こんにちは」
「ああ、うん。こんにちは」
突然のあいさつに僕は反射的にそう返すしかなかった。彼女はそんな僕の様子を気にする様子はない。
「また来たんですね。今日も仕事のおサボりですか?」
彼女は少し前かがみになってそう尋ねた。
「うん。まあ昨日はサボってたわけじゃないんだけどね。今日は休みなんだ。季節柄暇なんだ」
「ふうん、そうなんですか。それで今日はどういったご用件で?」
あれ、自分で聞いてきた割には反応が薄い。ここは「どういうお仕事なのですか」とか聞いてくるところではないのか。そういうことをわざわざ気にする僕の器が小さいのだろうか。
「いや今日はただの暇つぶし。この村特に何もないからね」
「では今は暇なのですね」
「うん、そうだけど」
僕が暇と繰り返すと彼女は急に興味を持ったように僕に近づいてきた。そして彼女は初めて語気を強めた。
「あなたは私の願いを叶えてくれますか?」
彼女は急にわけのわからないことを切り出した。自分の願いを叶えてくれ、と。
さっぱり状況がわからない。
「ええと、急に言われてもさっぱり意味が分からないんだけど。願いを叶えるってどういうことかな。」
「すいません説明不足でした。そうですね、まず私の体を触ってみてください」
えっ!?
出会ってまだ二日の男に体を触れとは此は如何に。これが「外」では常識なのだろうか。
「早くしてください、説明できません」
彼女は少し怒ったような顔で僕を急かした。このまま触らないでいてもらちが明かないので僕は仕方なく彼女の誘いに応じることにした。とりあえず一番無難と思われる彼女の腕に手を伸ばした。彼女は僕が手を伸ばしても表情一つ変えない。まるでどうとも思っていない様子で。
そして僕は彼女の腕に触れた、いや、触れることができなかった、触れたはずだった。
だけど僕の手は無情にも彼女の腕をすり抜けた。僕は驚きを隠せずすぐさまその場を飛びのいてしまった。
「驚きました?つまりそういうことなんです」
つまりどういうことなんだ。僕の手は確かに彼女の腕をすり抜けた。この目で確かに見たんだ。見間違いなんかじゃない。
「見ての通り私は幽霊です。今確かめましたよね。私はすでに死んでいるんです。これを理解してもらえないとこれ以上説明しようがないんですけど」
驚きを隠せない。そういう反応をするしかない。脳に強制されている。それでもここまで聞いてしまった以上続きを聞くしかない。彼女の言葉には何故か拘束力があるように思われた。僕は驚きの感情を抑えて唾を呑み込んだ。彼女は僕の意思を感じ取ったのかゆっくりと話し始めた。
「十年前にこの駅で起きた鉄道事故を知っていますか」
「うん、まあ一応ね」
当時はまだ幼かったから詳しいことは知らないけれど父さんからいろいろと話を聞いたことがある。
十年前この都駅で鉄道事故があった。確か原因はエンジンのトラブルだったはずだ。当時はまだ炭坑が稼働していたから利用客はそれなりに多かったらしい。そのため事故で炭坑労働者を含む二十七名がなくなったらしい。当時地方の小さな駅を廃する動きがあったため、この事故をいい口実にこの駅は廃された。その煽りを受けて炭坑も閉鎖となった。
「私はその事故で死にました」
「え!?」
「でも私はこの世界にまだ未練があったらしく成仏できなかったんです」
「うん、それで願いというのは何なのさ」
彼女はそこで少し息を整えた。
「長くなってしまってすいません。簡潔に言いますね。私を成仏させてくれませんか?」
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