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線路少女は笑わない 10

 僕たちが家路についたのは中央街にすら若者が見えないほどの時間であった。雪菜は祖母と二人で話がしたいということで、二人はリビングに消え、僕は二階の雪菜の部屋に通された。彼女の部屋は二階の隅にあり扉には「ゆきな」と書かれた木の板が掛かっている。部屋の中に入ってみると十年使われていないとはとても思えない様子だった。教科書が置きっぱなしで放置されている学習机、教科書が入ったままの通学カバン、床に置かれた定期券ケース。まるでさっきまでこの部屋に雪菜がいたのではないかと感じられた。壁のカレンダーには習慣であるのか毎日バツがつけられていた。でもそれは十年前のある日付で終わっていた。それは雪菜が死んだ日だった。

 僕は急に空しくなってきてその場に伏してしまった。そのカレンダーの横には祖母と雪菜二人の写真が飾ってあった。

 僕の旅は本当に正しかったのだろうか。そんな問いが僕の頭を過った。それでも僕は頭を横に振った。これでよかったのだ、と。そうしてどれくらい時間がたっただろうか。雪菜が部屋に来て僕を呼んだ。どうやら祖母との話は終わったようで、彼女の顔はどこかすっきりしているように見えた。彼女は部屋に入ってくると、懐かしむように部屋全体を眺めて、そのまま座り込んでしまった。

「私、本当に死んでいるんですね」

彼女は小さな声でそうつぶやいた。僕は彼女に声をかけることができなかった。

彼女はしばらく考え込んでいた様子だったが、急に立ち上がって、僕の手を引いた。

「話があるので外に来てください」


 僕が彼女に連れられて来たのは近くの空き地だった。その道中僕と彼女はずっと無言だった。夜が深まり、時刻はとうに零時を過ぎて、さすがの東京大都といえども街頭のネオンも消え、あたりはすっかり鎮まり返っていた。

「おばあちゃんとはいろいろなことを話しました。この十年間何があったのか、私が何を体験したのか、おばあちゃんがどうしてたのか。すごく楽しかった」

彼女は空き地に着いてしばらくすると、独り言のように話し始めた。

「おばあちゃんは私に会えたことを凄く喜んでいました。私も凄く嬉しかった」

そういうと彼女は僕のほうを向き直った。

「ありがとう、隼人君」

彼女が言い終えた瞬間、彼女の小さな躰が淡い光に包まれ始めた。

「雪菜…」

「約束を果たしたので私はもうすぐ消えるみたいです」

彼女は息をすうっと吸った。そしてゆっくりとその息を吐いた。

「実は私、隼人君がハッキングする前からおばあちゃんのこと全部覚えていたんです。だから行こうと思えば一人で行けたんです」

それは驚きの告白だった。

「じゃあなんで僕を」

そう言うと彼女は再び僕に背を向けた。

「騙しててごめんなさい。怖かったんです。一人でおばあちゃんに会いに行くのが怖かったんです」

彼女はすでに消えかけている右足で土を蹴った。

「おばあちゃんに私を忘れられるのが怖かったんです。私が死んでから十年。事故から三年後まではあの駅には献花台がありました。最初は献花する人も大勢いましたが年月が経つにつれその人数は減っていきました。そしてもう献花台は撤去されました。みんな忘れてしまったんです。それどころか事故があったことさえ知らない人もいます。だからおばあちゃんも私を忘れてしまったんじゃないか、そう思ったんです。」

そして彼女は再びこちらを向き直った。その顔は半分泣いていて、彼女は必死に腕で涙をせき止めようとしているようだった。

「でも私はあなたのおかげで強くなれた。おばあちゃんに会えた。だから、その...」

彼女は急に僕に抱き付いてきた。その体はすでに消えかけていた。彼女はそのままの姿勢で僕の耳に口を近づけ小さく囁いた。

『ありがとう隼人くん。私、隼人くんに会えてよかった。私、隼人くん好きだよ』

彼女はそのまま僕の頬に唇を当てて、消滅した。

「ずるいよ、雪菜は…」


僕はその場に崩れ落ちた。


-the present,Miyako to Tokyo.


 東京大都の千代丸区の外れに雪菜の墓はあった。着くとその墓石には誰かが水をかけた形跡があった。おそらくハルさんが来たのだろう。

 一通り始末を終えると、僕は墓に手を合わせた。彼女は今頃天国で何をしているのだろうか。

「あれ?こんなところで何をしているんですか隼人くん。」

話しかけられた方向を向くとそこには女の子が立っていた。体格を見るに、年齢は十四歳ぐらい。やや長い黒髪を肩で下ろし、白いワンピースを身に着け、麦わら帽子をかぶった女の子だ。僕は無言で立ち上がった。そして迷わず彼女の華奢な体を抱き寄せた。

「成仏はどうしたのさ」

彼女は少し驚いた様子であったが、すぐに僕の瞳を見つめて、表情を崩した。

「よく分からないんですけど神様に忘れ物を取ってきなさいと言われてしまいまして」

僕は彼女の耳に口を近づけるとそっと囁いた。


「やっぱりずるいよ、雪菜は!」


                                    -Fine.

これにて連載終了です

かなり下手な作りですが楽しんでいただけたでしょうか


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