線路少女は笑わない 1
都駅。その駅はもう使われていない。田舎にたたずむ小さな廃駅。
僕-内匠隼人はこの駅が好きだ。勘違いしてもらっては困るので一応言っておくけど僕は鉄道オタクでもなければ、廃駅マニアでもない。ただ、自由を求めて彷徨する中学二年生だ。
ただ一つ述べるとしたら、三か月前にここでとある少女と出会い、ともに過ごした夏の思い出。
three monthes ago-20××.6.11~20××.6.24
「暑い」
僕は思わず嘆いた。
まだ六月だというのに外の気温は30℃を超えているのだ、嘆かずにはいられない。
都村。都という名に反して、ここは田舎だ。バス停まで三十分、鉄道の駅までは自転車で二時間という超のつくド田舎だ。
昔は石炭が掘れたということもあり炭坑の村として栄えた時代もあったらしいが今は見る影もない。
都駅はそのころの名残だ。経済バブルの後はみるみる人口が減少して、平成の大合併にも巻き込まれかけたが、今でも残っているということはまだこの村も多少は力があるのかもしれない。
世間では少子高齢化などと謳われているがこの村も例外ではない。
若い働き手は圧倒的に足りていないのだ。だから僕のような中高生も手伝いに駆り出されるのである。
今日の仕事は父さんの手伝い。都駅においてある薪を商工会議所まで持っていくことだ。いつもの仕事はもっとハードなので今日の仕事は比較的楽なほうだ。
善は急げ。僕は朝ごはんを早々にのどに掻き入れると、足早に駅に向かった。
都駅。小さな村の、しかも廃駅ということでこの駅には自動改札や券売機がない。駅員さんから直接切符を買って電車に乗るのだ。
廃駅となった今、駅員さんはいないので、そのまま走ってホームにたどり着くことができる。ホームに上がると父から頼まれた薪はいつも通りの場所に置いてあった。小学生のころから手伝っている都合、こういう仕事には慣れていた。僕は早々に薪を背負い駅を去ろうとした。
その時線路のほうが目に入った。誰もいないはずの廃駅の線路。そこには人-少女が立っていた。
見た目は小学校高学年から中学校低学年ぐらいだろうか、長い黒髪を肩のところで下し、麦わら帽子をかぶっていて、白いレースがついたワンピースを着ている、そんな女の子が線路に立っていた。
まったく見覚えのない少女であった。この村は小さい。だから村人全員が互いのことを知っている、いわば全員顔見知りなのだ。でも僕は彼女を知らない。「外」の人間だろうか。僕は線路のほうへ体を向けるとその少女に向かって独り言のように話しかけた。
「ここには電車は来ないよ」
彼女は僕の声を聞いて背筋をびくっとさせた。しかしすぐに冷静さを取り戻したかのようにこちらを向いた。
「知ってますよ」
彼女は澄んだ、しかし少し幼さを残す声で答えた。
「どうしてこんなところにいるの?」
僕がそう質問すると彼女は線路からホームのほうに上がってきて僕の真正面の位置に立った。
「なんとなくですかね。あなたこそどうしてこんなところにいるんですか。」
彼女は僕の眼を見据えてそう尋ねた
「親の手伝いだよ」
僕は背中に背負った薪を指さして答えた。
「親孝行なんですね」
彼女は自分から質問したくせに無表情のまま答えた。
「ここじゃ親の手伝いぐらいは当たり前だからね。それに僕はよくここでサボってるし」
「それじゃここにはよく来るんですか?」
彼女は立て続けに質問した。これではまるで僕が「外」の人間として尋ねられているみたいだ。
「まあまあ良く来るよ。それがどうかしたかな。」
僕がいくら答えても彼女は無表情のままである。まるで僕の心の中を推し量っているようだった。
「いえ別に。またお会いしたいと思っただけです。私に話しかけたのはあなたが初めてだったので」
別に、と言いながら彼女はすらすらと話した。
これが僕と「線路少女」の出会いだった。
本日より連載を始めました
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6/4加筆修正