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肉まん

この世には何かしら理不尽なことがある。

それはその理不尽に打ち勝つ二人の少女の物語。

「こんばんは、流希ねーさま」


「ん?

 ああ。蒼じゃない。

 どうしたの?」


とある日。

ほのぼのとした長野県長野市とあるとこ。

日も暮れかけてきた午後五時半。

買い物帰りなのだろう、白い袋からはネギが付きだしている。


「少し聞きたいことがあって来たんです。

 お話、いいでしょうか?」


「まー別にいいわよ?

 これから夜のお鍋パーティだけどね。

 一人加わるぐらい別にどうってことないわ。

 そこで話しましょ?」


「え、あ、は、はい……」


「?」


白い袋に入った食材を蒼に見せつけて流希は蒼についてくるように指示する。

とてて、と蒼は静かに流希の後を追う。


「そういえばあんた《ネメシエル》はどうしたのよ?」


「ちょっとそこに置いてきました」


「……ふーん」


ちょっととはどこかすごく気になった流希だったがあえて突っ込まない方が賢明だと思ったため静かに唸るだけにしておいた。

多分触れた瞬間嫌なことになるだろうという予想があった。


「あ、でも気になるなら……」


「いやいいわ。

 やめておくわ」


「そう……ですか」


「そうよ、ええ」


実は流希は買い物中に振動を感じていた。

地面が揺れ、カタカタと商品棚が揺れるような強い振動を。

あれって間違いなく……。

ちらっと蒼を流希は見る。

のんびり空の星を眺めながらついてくる自分より小さな少女を見て眉をひそめる。

いったいどこにしまったのかしらね。


      ※



「ただいまー!」


「お帰り」


「おじゃましますです」


「おや、蒼ちゃん。

 どうしたんだい?」


台所の奥から鍋を持って現れたのは瀬田大輔。

流希が無造作に突き出す袋を受け取り濡れた手をタオルで拭いている。


「大ちゃん、なにやってるの?

 早く手伝って……って蒼ちゃんじゃない。

 どうかしたの?」


またまた奥から現れた人物も手をタオルで拭いていた。

地面に食器が零れ落ちて割れている。

おそらくあの地震の衝撃で落ちたのだろう。


「ああ、そこ破片あるから気を付けて?」


「は、はいですっ」


愛奈が蒼を抱きかかえてひょいと移動させる。

流希は手に持った荷物を地面に置くと先ほどの愛奈の問いに答える。


「なんか私に用事があるみたいなの。

 たぶん何かしらの悩みだと思うから話してくるわ」


流希は大輔にあらかた荷物を渡すと蒼にこっちに来るように手をちょいちょいとさせた。

蒼もそれにしたがって流希の後ろにべったりと張り付く。


「おっけ、分かったよ。

 蒼ちゃん、まああがってあがって」


「すいません、いまからお鍋だというのに……。

 すぐに帰りますからっ……」


本当に申し訳なさそうに蒼は大輔と愛奈に頭を下げた。

そして先を進んでいく流希について行くのだった。


      ※


流希の部屋にたどり着くと蒼はほっとしたようにドアを閉めた。

カチリ、と鍵も占める。

あまりの警戒ぶりに疑問を抱いた流希は眉をひそめて真剣な表情になる。


「流希ねーさま突然ですがよろしいでしょうか?」


蒼は流希の前に立ち膝をつく。

流希はごくりと生唾を飲み込みながらベッドに座る。

一体どんな相談が来るのだろうか。

もしかして恋だろうか。

それとも愛について?

どちらにせよ流希にとって大事なことになる予感がしていた。


「流希ねーさま。

 あのですね。

 実はですね、私……あの……胸が欲しいんですよ」


「…………あ?」


「ですからむn――」


「あーあんたそういう相談なら愛奈にしなさい。

 私じゃなくて」


思わず喧嘩体勢に入ってしまった流希に気が付かないまま蒼は繰り返し言葉を出そうとした。

デリカシーがないのではない。

ただ、バカなのだ。

鈍いのだ。


「愛奈さんにはそんなこと言えないじゃないですかっ。

 だってあの人大きいんですから!」


「あー……」


流希は静かに首を二度三度盾に振った。

確かに愛奈は大きい。

それは女である流希の目から見ても明らかだった。

それだけに余計に相談しにくい気持ちも流希には分かった。


「でも、それを胸のない私に言われてもね……あんたね……」


「いや、ですから。

 割と真面目な話流希ねーさまと一緒に考えたら少しは大きくなる方法が……」


「見つからないから!」


「わ、分からないじゃないですかっ」


「分かるわよっ。

 どうせ私は……」


蒼はハッとした表情で流希を見上げた。

流希の目頭は少し熱くなっている。

ぼんやりといつの間にか涙の膜が張っているのだ。


「あれ、なんで私泣いて……?」


自分の抑えきれない感情。

それが流希を突き動かしていた。


「流希ねーさま?」


いきなり泣き始めた流希に蒼はおろおろすると犬のようにぐるぐると周りを回る。

流希は自分の抑えきれない何かの感情に突き動かされていた。

長年何とも思っていなかったこと。

こみ上げる涙を必死で流希は抑え込み自分の胸を触る。

普通ならそこで受け止めてくれるはずの脂肪は多少なりしか存在しない。


「……固い」


すぐ下に広がるのはあばら骨。

多少なりの脂肪はあったもののこんなものゼロに近い。

自分に配給されたブラジャーを流希はタンスから取り出して眺める。

「A~Bまで可」と刻まれたこのブラジャー。

紛れもない、流希自身のサイズを示している。


「あ、ああ……」


自分のブラジャーを見て流希は改めて恐怖を感じた。

ずっとこのサイズだったらどうしよう。

大輔はやっぱり大きい方が好きなのかな。

なんて、らしくない心配事まで頭を通る。


「あの、流希ねーさま?」


「な、なによ!」


「泣かないでください。

 私もほら……」


蒼は流希の手を掴んで自分の胸に当てさせた。

どくんどくんという心臓音が直に伝わるだけで柔らかさは何一つない。

流希はまだあるのだ。

そして少しだけだが山もあるのだ。

それに比べ。

蒼は。

なにもないのだ。


なにもないのである。


まったくもってゼロ。


「まさに航空甲板ね……」


ぽろっと流希の口から流れたのはその言葉だった。

とたん蒼の表情が険しくなる。


「いま……なんと?」


「こうくう……あ、ご、ごめん」


流希らしくもない。

とっさに謝ってしまった勢いで流希は頭を下げる。

蒼にとって航空甲板は失礼極まりない言葉だと悟ってしまっていた。


「……いいのです別に。

 そういわれると思って……」


そういうと蒼はポケットから丸いの二つを取り出した。

いわゆる肉まんというやつである。


「よく胸は肉まんと言われます。

 ということはですよ、流希ねーさま。

 考えてみてください。

 肉まんは胸なんじゃないでしょうか!」


そういうと蒼は肉まんを二つ頬に当ててにっこりした。

流希は大きな衝撃を受けた顔をして蒼の肩を抱きしめる。


「あなたはやはり天才か――!」


そういうと蒼の持つ肉まんを眺め、自分の胸を触る。

ぷにぷにとした感触も似ていると踏んだのだろう。

ガッツポーズをしてにやりとこちらも微笑む。


「ふふふっ。

 いまさら気がつきましたか流希ねーさま?

 私を誰だと思っているんですか。

 《ネメシエル》の副長ですよ?」


流希はがたんと立ち上がり、ガッツポーズで部屋から飛び出していく。

津でに机の上に置いていた財布も掴む。

小銭がぶつかり合いちりんちりんと音が鳴る。


「お、おい流希!」


「えっ、ちょ、えっ?」


大輔と愛奈が呼ぶのすら無視して流希は家を後にした。

そして三十秒後、すぐに戻ってきた。

早い。


「おい何処に行ってた――」


心配する大輔すら無視して流希は自分の部屋に戻ってくると手にぶら下げているビニール袋を蒼に突き出してきた。

『あなたとコンビニになりたいから』というキャッチコピーとうす紫色の文字で有名なフィミリースーパーの袋である。

当然コンビニエンスストアである。

そしてその中にはほかほかの肉まんが二つ入っていた。

流希はそれを自分の服の中に入れる。


「あつっ、熱いわね馬鹿!」


「え、冷ましてから入れたら……」


「それじゃあひと肌を通り越しちゃうじゃないっ!」


「そ、そうですね!

 確かに!!」


「でしょう!?」


肉まんの当たる胸の部分を庇いながらも胸に二つ入れた流希はドアをバシーンと開けると大輔のところへと走って行った。


「バカ大輔!!」


「は、はい」


「もめ!!」


「お、おう……え?」


「いいからはよ!!」


そういうと流希はずいっと自分の胸を大輔へと突き出した。

愛奈は顔を赤くして「な、なにやってるの……」と言いつつも止めない。

さすがです。


「お、おう……」


鍋の用意をしている手を休め手袋を外すと大輔は流希の胸に手を伸ばした。


「どう?」


「に、肉まん……」


「………ってそりゃそうよね」


流希はそこでようやく我に返ったようだった。

心配そうに後ろから流希を見る蒼の目も「大丈夫か」と訴えている。

すると突然恥ずかしくなってくるのは当然で。


「もぉぉおおおおおおおばかぁあああああああああああああ」


寒い冬の空に流希の声は響き渡ったのだった。


「流希ねーさま……もませたら肉まんはもとには戻りませんよ……」


ぼそっと蒼は呟くと手に持った肉まんをむしゃりと口に入れた。


「あ、これおいしいです」


「うわぁあああああんもぉぉあああああああああ」


ひとしきり嘆いた後四人で全員楽しく鍋をつついたらしい。

そして夜は愛奈さんに聞いて全員でどのようにして胸を大きくするのかをひたすら語り合ったそうな。




               つづかない~


P.S

《ネメシエル》をどこにしまったのかはひ・み・つ・ですっ。




その日、VMFLの基地では司令が巨大な戦艦を持て余していたらしい。

どうするんだろう。

ありがとうございました。

これはコラボものです。

ジェフティさんの書かれる


「閃光のプロキオン」

http://ncode.syosetu.com/n6407x/


およびおいらの書く


「超空陽天楼」

http://ncode.syosetu.com/n0155bc/


のコラボ作品です。

もちろん身内ネタばかりです。

でもこれで興味がわきましたらぜひぜひっ。


ではではっ。

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