LIFESTYLE
『過去の俺に言いたいことは一つだけ。明日の午後四時、アイツにだけは絶対に会うな』
未来の自分を名乗る電話越しの声は単刀直入だった。簡潔に物事を述べたがるところが今まさにその声を聞いている自分自身の物言いそのまんまで、俺は苦笑混じりに口を開く。
「あの人って、今日俺がダチに紹介されたバーのマスターやってるハゲの兄ちゃんのことだろ?確かに意気投合して話し込んじゃったし明日の午後四時同じ店で待ってるからまた飲もうって誘われたけど、今のところ行くか行かないかは気分次第ってところだな。未来の俺はどうしてそんな必死に止めようとする?」
『あの男の名はフランキー。初見の人間に対する人当たりがいいからそうは見えなかったかもしれないが、反射組織の親玉だ。あの男にもう一度接触したが最後、俺はその組織のトップに仕立てあげられるぞ』
「へえ。反射組織の親玉ねえ」
俺は電話を肩に挟み、胸ポケットから取り出したタバコに火をつけながら口角を上げる。
「いいじゃないか、肩書きが派手で。未来の俺のことだからそのフランキーとかいう男に上手いこと取り入ってぬるっとポストに収まったんだろ?自分の身を置いてるのが反社っていうのがそんなに不満なのかよ」
『はあ、口調や思考が完全に二十年前の俺で頭が痛いよ。お前がそんな風にお気楽だから未来の俺は身を滅ぼすことになるんだ』
そうやって未来の俺は溜息を吐いていた。
『若い俺にこんなことを言っても理解に苦しむことだろうが、派手な肩書きなんかよりも健全な精神の方がよっぽど大事だ。アイツと出会った俺は闇に染まっていき警察に何度か捕まりながらも三十前半くらいまでは刺激的な毎日を送っていたが、そのせいで今の俺は脳みその病気に苦しんでる。今はまだ何とか正気を保てているがいつ刑務所で野垂れ死んでもおかしくない状態だ、平穏な生活に引き返せるのは今しかない』
「わざわざどうも。だがお前も何となく分かっているだろうが蛙の面に小便だったな」
俺は煙草の煙を目の前にはいない相手に吹きかけるようにして吐いてやった。
「たとえ最期が無様だろうが、脂の乗った二十代をクレイジーに過ごせるのなら上等だよ。この俺様にふさわしい人生さ」
『まあ、若い俺ならそう言うだろうな。それなら好きにすればいいさ、未来の俺はちゃんと忠告したからな。アルフォンヌ』
「ご高説はちゃんと頭の引き出しに仕舞っておいてやるよ。もっとも酒に酔いつぶれて一眠りしたらいつの間にか消えてなくなってる魔法の引き出しだがな」
そんな言葉で締めくくり、俺は大袈裟な音を立てて受話器を元の位置に戻してやった。引き続き煙草をふかしながら、電話を切った俺は翌日奴に会うことで頭が一杯だ。
古びた建物の窓から覗く月にそっと目を移す。フランキーという男がこの俺、アルカポネの伝説に必要なピースであることをこの夜に確信した。




