第97話 王、崩れる
夜は、静かに始まった。
だが、その静けさは長く続かなかった。
王城内、奥殿。
重い扉の向こうで、慌ただしい足音が響く。
「意識が――」
「医師を!」
「脈が不安定だ!」
報せは、瞬く間に広がった。
王、急変。
王城は封鎖される。
出入りは制限され、伝令が走る。
夜の王都にも、その波は届く。
「何が起きた」
「王は……」
市場はざわめき、酒場の声は低くなる。
不安は、形を持ち始める。
王太子宮。
レオンハルトは立ち上がった。
「軍部へ通達」
「王城警備を強化」
「外部への声明は私が出す」
迷いはない。
速い。
だがそれは、制御された速さ。
「混乱を広げるな」
「王は存命だ」
その一言で、側近たちの動きが整う。
一方、別棟。
第二王子カイウスは、すでに状況を把握していた。
「時間が来たか」
呟く。
声は穏やか。
だが判断は速い。
「臨時統治体制を提案する」
「今夜中に評議を」
側近が一瞬だけ戸惑う。
「殿下、それは――」
「遅れれば崩れる」
即断。
それが彼の強さ。
そして――危うさ。
私は王城の廊下を歩いていた。
灯りが揺れている。
いつもより暗く感じる。
王が倒れた。
それは事実だ。
だが問題はそこではない。
“次”だ。
廊下の先で、二つの流れが交差する。
王太子の伝令。
第二王子の使者。
どちらも速い。
だが質が違う。
片方は整える速さ。
片方は握る速さ。
辺境伯が低く言う。
「来たな」
「ええ」
私は止まらない。
「ここで決まります」
何が正しいかではない。
何が残るか。
王城大広間。
緊急評議が開かれる。
貴族、軍部、宰相。
そして王太子と第二王子。
空気は張り詰めている。
第二王子が先に口を開く。
「状況は明白だ」
「王は政務不能」
「国家は空白を許さない」
視線が集まる。
「即時、統治権を集中させる」
「財政、軍、交易――すべてを一本化する」
明確。
速い。
「責任は私が負う」
再び、その言葉。
広間に響く。
安心を与える言葉。
だが。
王太子が一歩前に出る。
「王はまだ存命だ」
静かな声。
「統治は継続される」
視線が交差する。
「私は王太子として、政務を代行する」
宣言。
強くはない。
だが揺れない。
第二王子は微笑む。
「遅い」
小さく言う。
「国家は待たない」
その通りだ。
私は、その二人を見る。
速さは正しい。
持続も正しい。
どちらも、必要だ。
だが。
どちらか一つでは足りない。
王の呼吸は、まだ続いている。
だが王国は、決断を迫られている。
静寂の中で。
国家は、形を変えようとしていた。
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