第96話 誰が負うのか
大評議会は満席だった。
貴族、軍部、商会、官僚。
王の療養が長引く中、国家の統治体制を定める正式な場。
ざわめきは抑えられているが、緊張は濃い。
第二王子カイウスが中央に立つ。
「父上の容体は安定している」
まず安心を置く。
「だが長期療養は避けられぬ」
現実を告げる。
「国家は迷えない」
視線が集まる。
「緊急決裁制度を即時導入する」
「財政統合を前倒しし、軍と交易の指揮を一本化する」
明確だ。
速い。
「責任は私が負う」
広間がどよめく。
その一文は強い。
商会席からも頷きが見える。
若手貴族は明らかに支持している。
王太子は動かない。
静かに見ている。
私は立ち上がる。
「発言を」
空気が張る。
「殿下の覚悟は理解します」
否定から入らない。
「責任を負うという言葉は重い」
カイウスは穏やかに頷く。
「当然だ」
「ですが」
一拍。
「国家は個人の覚悟を前提に設計できません」
広間が静まる。
「殿下が倒れた場合」
「判断を誤った場合」
「制度はどう再起しますか」
沈黙。
第二王子はすぐに答える。
「私は倒れない」
強い言葉。
若手貴族から小さな賛同の声。
だが私は揺れない。
「国家は“倒れない”を前提にしてはなりません」
「国家は“倒れても戻れる”ように設計すべきです」
軍部席が静かに動く。
将軍アルドリックの目が光る。
「集中は速い」
「だが失敗時、被害も集中します」
「制度は個人より長く続くものです」
宰相が低く言う。
「慎重すぎれば、今を失う」
「今を守るために、未来を削るべきではありません」
私は続ける。
「六年目の財政緩衝が消える」
「北方が再交渉した場合、再起資金が不足します」
数字を示す。
ざわめき。
第二王子は私を真っ直ぐ見る。
「未来は不確実だ」
「だから速さが必要だ」
「未来が不確実だからこそ、余白が必要です」
視線が交差する。
思想の衝突。
だが罵倒はない。
王太子が静かに立ち上がる。
「速さは必要だ」
室内が止まる。
「だが速さに枠を置く」
「期限付き緊急決裁制度を導入する」
「三者承認、事後監査、再評価条項を明記」
明確な線引き。
第二王子はすぐには答えない。
数秒の沈黙。
広間の空気が張り詰める。
そして、彼は言う。
「合理的だ」
反対しない。
「責任を明確にする枠ならば、受け入れよう」
若手貴族が戸惑う。
完全集中ではない。
だが拒否でもない。
勝敗はつかない。
だが制度は一段進む。
会議が散会する。
廊下で、第二王子が私に言う。
「あなたは常に最悪を想定する」
「国家は楽観で設計しません」
「私は最善を目指す」
「最善は、最悪を耐えられる形でなければなりません」
一瞬の静寂。
「あなたは私を止める」
「いいえ」
「支えています」
彼の目がわずかに細くなる。
「面白い」
それだけ言って去る。
思想はぶつかった。
だが壊れなかった。
速さと持続。
天秤は揺れ続けている。
その夜。
王の容体が、急変した。
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