第90話 決断の声
王城前広場。
公式の演説ではない。
だが人は集まっていた。
噂は速い。
「第二王子殿下がお言葉を」
カイウスは壇上に立つ。
鎧ではない。
礼装でもない。
落ち着いた外套のみ。
距離を近く見せる装い。
「父上は療養中だ」
静かな声。
広場は自然と静まる。
「不安は理解している」
「だが我々は動揺すべきではない」
否定しない。
受け止める。
「国家は決断を要する時がある」
「迷い続けることは、責任ではない」
その言葉が残る。
「迅速な政務体制を整える」
「責任は私が負う」
広場がどよめく。
強い。
“私が負う”。
単純で、力がある。
その様子を、私は離れた場所から見ていた。
民は安心を求める。
安心は、明確な言葉に宿る。
同時刻、王城内。
王太子レオンハルトは、正式な声明を出す準備をしていた。
広間に集められた貴族、官僚、軍部。
「王は療養中だ」
彼の声は低く、揺れない。
「国家は動く」
「だが、急がない」
ざわめき。
「決断は下す」
「だが制度の枠内で」
明確な線引き。
「緊急決裁制度は導入する」
「ただし期限と監査を設ける」
速さを拒否しない。
だが制限を置く。
「責任は個人ではなく、制度で負う」
広間が静まる。
第二王子の言葉とは対照的だ。
あちらは“私が負う”。
こちらは“制度が負う”。
どちらが強く聞こえるか。
夜。
私は執務室で両方の言葉を書き並べていた。
私が負う。
制度が負う。
民は前者に惹かれる。
だが国家は後者でなければ続かない。
扉が叩かれる。
入ってきたのはルシアンだった。
「演説は効果的でした」
どちらの、とは言わない。
「ええ」
「あなたはどちらが勝つと思う」
私は少し考える。
「勝敗ではありません」
「時間です」
「時間?」
「速さは今を掴みます」
「持続は未来を作ります」
彼はわずかに笑う。
「理屈だ」
「国家は理屈でしか持ちません」
沈黙。
外ではまだざわめきが続いている。
第二王子の支持はさらに広がった。
だが王太子は揺れていない。
思想は、はっきりと分かれた。
握る者。
支える制度。
国家はどちらを選ぶのか。
いや。
国家は、どちらも必要としている。
だからこそ、この争いは簡単ではない。
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