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婚約破棄された悪役令嬢は、役割を与えられない場所で静かに生きる 〜尽くしても報われなかった私を、理由も聞かずに受け入れてくれる領がありました〜  作者: 東雲透


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第74話 正式召喚

 封蝋は、王家紋章。


 深紅。


 重い。


 執務室の空気が静まる。


 補佐官が文書を開き、読み上げる。


「王太子レオンハルト殿下の名において、辺境伯アレクシスに王都出頭を命ず」


 命ず。


 形式上は協議。


 だが、公の場での説明を求めるということは、政治の舞台に引き出すということだ。


「議題は、北方港再稼働に関する協議」


 ガルドが低く唸る。


「協議、か」


 言葉は柔らかい。


 だが、宰相派は確実にいる。


「罠の可能性は」


 補佐官が問う。


「ある」


 辺境伯は即答した。


 表情は変わらない。


「だが、避ければ不利になる」


 呼ばれて応じないのは、反抗と取られる。


 私は静かに文書を見る。


 王太子の名。


 宰相ではない。


 つまり。


 裁くためではなく、均衡を取りに来ている。


「いつですか」


「十日後」


 短い。


 準備する時間はある。


 だが、十分とは言えない。


「港は」


 ガルドが言う。


「第二便は予定通り出る」


 私は答える。


「王都に行っている間も、回る構造にしてあります」


 辺境伯が私を見る。


 確認。


「問題ないか」


「ありません」


 迷いはない。


 だが、胸の奥がわずかに揺れる。


 王都。


 戻るつもりはない。


 でも、戻る形になる。


 違う。


 今度は、呼ばれて行く。


 選ばれて行くのではない。


 立って行く。


 ガルドが言う。


「これはただの説明会ではない」


「議会も巻き込むだろう」


「宰相派は攻めてくる」


「分かっている」


 辺境伯の声は低い。


「だからこそ、行く」


 静かな決意。


 逃げない。


 隠れない。


 正面から立つ。


 私は深く息を吸う。


 王都は舞台だ。


 かつては、役割を与えられる場所だった。


 今は違う。


 私は自分の構造を持っている。


 文書を閉じる。


 赤い封蝋が光る。


 十日後。


 港の灯りは消えない。


 だが。


 風向きは、王都へと向かっている。

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