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婚約破棄された悪役令嬢は、役割を与えられない場所で静かに生きる 〜尽くしても報われなかった私を、理由も聞かずに受け入れてくれる領がありました〜  作者: 東雲透


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第70話 隣に立つ

 港の喧騒は、夕方になっても消えなかった。


 最初の船がもたらしたのは、物資だけではない。


 安堵。

 確信。

 そして、誇り。


 市場の価格は落ち着き、商人たちは忙しなく動き回る。


 不安は、完全には消えていない。


 だが。


 “止まらない”と分かった。


 それだけで、空気は違う。


 城館に戻ると、簡素な報告会が開かれた。


 ガルドが立ち上がる。


「北方第一便、無事到着」


「損益は試算通り。三ヶ月以内に黒字化見込み」


 簡潔な報告。


 そして。


「今回の再構築設計は、レティシア殿の主導によるものだ」


 室内が静まる。


 私は顔を上げる。


 評価を求めたわけではない。


 だが、正式に言葉にされた。


「異論はあるか」


 ガルドが周囲を見る。


 誰も口を開かない。


 補佐官が小さく笑う。


「ない」


 それで決まった。


 私はもう、客ではない。


 外から来た令嬢でもない。


 構造を支える一人。


 会議が終わり、廊下に出る。


 辺境伯が歩調を合わせる。


「立場が変わったな」


 静かな声。


「……はい」


 少しだけ、緊張する。


「後悔は」


「ありません」


 即答だった。


 迷いは、あった。


 でも今はない。


 彼は立ち止まる。


 窓から港が見える。


 灯りが揺れている。


「お前はもう客ではない」


 低く、はっきりと。


「隣に立て」


 一瞬、言葉の意味を理解するのに時間がかかる。


 囲うわけではない。


 守る、とも言わない。


 “隣”。


 対等。


 責任を共有する立場。


 胸の奥が熱くなる。


「……立ちます」


 それしか言えなかった。


 彼はわずかに頷く。


「王都は次の手を打つ」


「はい」


「規模は広がる」


「分かっています」


 港を動かした。


 王都は誤算した。


 次は、王都が本気で来る。


 でも。


 私はもう、戻る選択肢ではない。


 ここで立つ側だ。


 窓の外、海は暗くなっている。


 だが、灯りは消えない。


 私は、彼の隣に立つ。


 守られるためではない。


 守るために。


 第五章は終わる。


 だが、物語は一段、広がった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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