第66話 整えましょう
朝の会議は、静まり返っていた。
王都からの警告文。
市場の不安。
港の修繕費。
全てが机の上に並んでいる。
ガルドは腕を組み、補佐官は資料を睨み、辺境伯は沈黙している。
私は、その沈黙の中で立ち上がった。
「整えましょう」
全員の視線が向く。
声は大きくない。
けれど、はっきりしていた。
「港を動かすだけでは足りません」
地図を広げる。
「王都経由の物流は完全に切らない」
ガルドが眉を上げる。
「二重化するのか」
「はい」
「王都が締めれば北方を強める」
「北方が遅れれば王都を使う」
どちらにも依存しない。
「内部流通を再配分します」
倉庫ごとの備蓄割合を示す。
「塩と薬草は優先配分」
「穀物は価格固定枠を設ける」
補佐官が息を飲む。
「価格固定は財政負担が」
「三ヶ月限定です」
即答。
「その間に北方便を安定させる」
ガルドが口を開く。
「人手は」
「港修繕班を二交代制に」
「市場管理に臨時人員を回す」
辺境伯が静かに問う。
「責任は」
私は一瞬だけ迷う。
だが、逃げない。
「私が設計します」
やる、と言わない。
設計する、と言う。
感情ではなく、構造。
「失敗すれば」
「見直します」
即答。
沈黙。
重い沈黙。
そして。
辺境伯が言う。
「やれ」
短い命令。
それだけで決まる。
空気が変わった。
ガルドが地図を覗き込む。
「……数字は本物だな」
「はい」
「なら、乗る」
その一言は、正式な承認。
会議が解散する。
廊下に出ると、鼓動が少し早い。
怖くないわけではない。
でも。
戻らないと決めた。
ならば、動く。
辺境伯が横に並ぶ。
「迷いはないか」
「あります」
正直に答える。
「でも、止まりません」
彼はわずかに目を細める。
「それでいい」
短い言葉。
だが、重い。
港へ向かう馬車の中。
波が光を反射している。
私は、ようやく気づく。
ここにいたい、と言った。
それは願いではない。
責任だ。
守ると決めた場所なら。
整える。
揺らがないように。
港の鐘が鳴る。
閉ざされた場所が、動き出す。
私はもう、客ではない。
共に立つ者だ。
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