表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された悪役令嬢は、役割を与えられない場所で静かに生きる 〜尽くしても報われなかった私を、理由も聞かずに受け入れてくれる領がありました〜  作者: 東雲透


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/97

第60話 不満の声

 市場の空気が、はっきりと変わったのは三日後だった。


「値がまた上がるらしい」


「王都が締めているって本当か?」


 声は小さい。


 けれど、確実に広がっている。


 穀物の値はまだ許容範囲だ。


 だが薬草と塩が不足し始めた。


 医師の元に人が並び、商人は仕入れの目処が立たないと肩を落とす。


 午後、城館の応接室。


 商会長ガルド・レイヴンが、初めて強い調子で口を開いた。


「このままでは、冬を越せません」


 五十代半ば、現実主義の男。


 辺境伯に忠実だが、甘くはない。


「王都との関係を再考すべきです」


 室内の空気が、静かに固まる。


「再考とは」


 辺境伯の声は低い。


「圧力を受けているのは明らかです。ならば、和解の姿勢を示す」


 遠回しな言葉。


 だが意味は明白。


 ――レティシアを戻せ。


 私の名前は出ていない。


 それでも、皆が分かっている。


「領民の生活が最優先です」


 ガルドの言葉は正しい。


 間違っていない。


 私は、会議の端で静かに座っている。


 以前の私なら、ここで何かを言っただろう。


 自分が戻れば済む話だ、と。


 責任を引き受けようとしただろう。


 胸の奥が、わずかに揺れる。


 ここを選んだ。


 でも。


 その選択が、誰かの負担になっているなら。


 辺境伯が口を開く。


「王都が圧をかけている証拠はない」


「だが現実は減っている!」


 ガルドの声が、初めて荒れた。


 沈黙。


 重い空気。


 私は、ゆっくりと立ち上がる。


 全員の視線が向く。


「……数字を、見せていただけますか」


 静かな声。


 感情ではなく、確認。


 ガルドは一瞬ためらい、帳簿を差し出す。


 私は頁をめくる。


 物流の遅延。

 価格の変動。

 関所での停滞日数。


 不自然だが、致命的ではない。


 まだ、整えられる。


 私は顔を上げる。


「和解を急ぐ段階ではありません」


 はっきり言った。


 室内がざわつく。


「代替ルートの再構築と、内部流通の再配分で持ちます」


 具体的に続ける。


「山道の警備を強化し、南側の小港を活用する」


「薬草は領内栽培の比率を上げられます」


 ガルドが目を細める。


「理想論だ」


「いいえ」


 私は首を振る。


「数字上、可能です」


 辺境伯の視線が、私に向く。


 問いかけではない。


 信頼だ。


「時間をください」


 私は続ける。


「王都に頭を下げる前に、やれることがあります」


 静かな決意。


 ここを選んだ。


 ならば。


 守るために動く。


 沈黙のあと、辺境伯が言う。


「やれ」


 短い命令。


 それで決まった。


 会議が終わり、廊下に出る。


 胸が熱い。


 便利であることは、幸せではない。


 でも。


 自分の選んだ場所を守るために力を使うことは。


 きっと、違う。


 不満の声は消えていない。


 けれど。


 私は、逃げない。


 ここを選んだのは、私だから。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ