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婚約破棄された悪役令嬢は、役割を与えられない場所で静かに生きる 〜尽くしても報われなかった私を、理由も聞かずに受け入れてくれる領がありました〜  作者: 東雲透


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第53話 辺境伯の選択

 執務室には、再び三人が揃っていた。


 辺境伯アレクシス。

 王都特使エリオット。

 そして補佐官。


 私は呼ばれていない。


 けれど、私の話をしている。


「本人の意思は確認いたしました」


 エリオットは、落ち着いた声で切り出した。


「即答ではありませんが、王都への復帰に前向きとは言えない状況です」


 曖昧な表現。


 まだ断られてはいない、という余地を残す言い回し。


「王都は、条件の再検討も可能です」


 地位の拡充。

 裁量権の拡大。

 独立した部署の設立。


 次々に提案が並ぶ。


「彼女の能力は、国家規模で必要とされています」


 静かな圧力。


 アレクシスは、書類から視線を上げる。


「彼女は、戻ると言ったか」


「明確には」


「では」


 アレクシスの声は低い。


「彼女の答えは出ている」


 エリオットの表情が、わずかに引き締まる。


「まだ時間を」


「時間は与えた」


 淡々とした断言。


「王都の条件は理解している」


「だが」


 そこで初めて、わずかな感情が混じる。


「彼女は“必要とされる場所”を求めていない」


 エリオットは沈黙する。


 昨日の会談を思い出しているのだろう。


「国家は、人材を適所に配置する責任があります」


 最後の論理。


 アレクシスは、ゆっくりと立ち上がる。


「私は、彼女を配置していない」


 その言葉は、明確だった。


「ここにいるのは、彼女の選択だ」


「彼女が望まぬ限り、王都には戻さない」


 初めての、はっきりとした拒絶。


 エリオットは静かに息を吐く。


「……王都は、遺憾に思うでしょう」


「構わない」


 迷いはない。


「彼女は、国家の所有物ではない」


 その一言で、空気が決まった。


 論理ではなく、立場の宣言。


 エリオットは立ち上がる。


「本日はこれ以上、申し上げることはありません」


 一礼。


 だが、その目にはわずかな理解が混じっている。


 一方、その頃。


 私は中庭で、風に揺れる枝を眺めていた。


 空は晴れ始めている。


 雲が薄くなり、光が戻ってくる。


 何かが、決まった気がする。


 胸の奥が、少しだけ温かい。


 私は、何も知らない。


 でも。


 守られているのではない。


 選ばせてもらっているのでもない。


 ただ、尊重されている。


 それが、分かる。


 風が強く吹く。


 枝が揺れ、葉がざわめく。


 私は目を閉じる。


 誰かが、私の人生を代わりに決めていない。


 その事実が、何よりも静かで、力強かった。

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