第51話 王都特使との対面
応接室は、簡素だった。
余計な装飾はなく、窓から森が見える。重厚さよりも、落ち着きが優先された部屋。
私は、椅子に腰を下ろす。
向かいには、エリオット・ヴァレンタイン。
穏やかな微笑みを浮かべているが、その目は冷静に状況を測っている。
「お時間をいただき、ありがとうございます」
丁寧な一礼。
「王都外務局、エリオットと申します」
「レティシアです」
名乗ると、彼の目がわずかに細くなる。
観察。
評価。
記録。
そんな気配。
「本日は、王都からの正式な提案をお伝えするために参りました」
声は穏やかだが、明確だ。
「あなたの能力は、王都でこそ活きます」
まっすぐな言葉。
「内政補佐官の席をご用意しております。待遇は従前以上。名誉回復も公に行います」
私は、静かに聞いている。
怒りも、戸惑いも、浮かばない。
ただ、情報として受け取る。
「王都は、あなたを必要としています」
その一文で、彼は言葉を区切った。
必要とされる。
かつての私は、それを誇りにしていた。
「必要とされることは、光栄です」
私は素直に答える。
エリオットは頷く。
「国家にとって、有能な人材は財産です」
「正しい場所に戻ることが、あなたの価値を最大にします」
正しい場所。
その言葉に、私はわずかに首を傾げる。
「正しい場所、とは」
「あなたの能力が最大限に発揮される環境です」
迷いのない説明。
論理は整っている。
だが。
「……ここでは、発揮されていないと?」
問い返すと、彼は少しだけ言葉を選ぶ。
「規模が違います」
「影響範囲が違う」
「あなたの力は、王都全体に必要とされるべきです」
私は、窓の外に視線を向ける。
森が揺れている。
静かだ。
「私は、困っていません」
自然に出た言葉だった。
エリオットの視線がわずかに揺れる。
「困っていない、とは」
「ここでの生活に、不満はありません」
地位もない。肩書きもない。
それでも。
「誰かに必要とされなくても、生きられます」
その言葉に、彼は一瞬沈黙する。
それは想定外だったのだろう。
「国家は、あなたを評価しています」
「評価は、ありがたいことです」
「ならば」
「でも」
私は、彼の言葉を遮らない程度に続ける。
「評価と、居心地は、同じではありません」
室内の空気が、わずかに変わる。
エリオットは、初めて微笑みを崩した。
ほんの少しだけ。
「あなたは、国家よりも個人を優先なさるのですね」
「優先というより」
私は考える。
「今は、自分の感覚を無視しないと決めただけです」
怒りも、反抗もない。
ただ、静かな選択。
エリオットは椅子に深く座り直す。
彼の中で、計算が組み直されているのが分かる。
「もう少し、考える時間を」
彼は穏やかに言う。
「王都は急ぎません」
「私も、急ぎません」
私は答える。
その会談は、静かに終わった。
立ち上がり、一礼する。
彼は最後に言った。
「あなたの選択が、国家にとっても最善であることを願っています」
願い。
けれど、それはまだ国家視点だ。
廊下に出る。
胸は、静かだった。
王都の論理は、正しかった。
けれど。
私の人生は、国家の最適化ではない。
そのことだけが、はっきりしていた。
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