第48話 本人確認の要求
提示は終わった。
地位も、待遇も、名誉も、将来の選択肢も。
エリオット・ヴァレンタインは、すべてを整然と机上に並べた。
沈黙が落ちる。
辺境伯アレクシスは、書面を閉じた。
「以上か」
「いえ」
エリオットは、穏やかな声で続ける。
「もう一点ございます」
補佐官の視線が、わずかに鋭くなる。
「本人と直接お話しする機会をいただきたい」
はっきりとした要求だった。
「正式な意思確認を行う必要があります」
王都は、本人の同意を得たという形を求めている。
拒否ではなく、選択。
強制ではなく、合意。
その体裁を整えるために。
「断る」
アレクシスの返答は、間を置かなかった。
エリオットの表情が、わずかに固まる。
「理由を伺っても」
「必要がない」
「本人の意思を尊重するためです」
「尊重するなら、静観するべきだ」
声は低いが、揺れない。
エリオットは視線を外さない。
「辺境伯閣下は、彼女の選択を妨げている可能性があります」
穏やかな指摘。
だが、明確な圧力。
補佐官の空気が一瞬張る。
アレクシスは、わずかに目を細めた。
「選択肢を持ち込むことが、必ずしも自由ではない」
「それは」
「王都が困っていると知れば、彼女は揺れる」
断言だった。
「それは、彼女の望みか」
エリオットは沈黙する。
彼は理性的だ。感情で動かない。
だが今、初めて計算が揺らいでいる。
「正式な会談を拒否されるのであれば」
「王都としては遺憾です」
言葉は丁寧だが、意味は明確だ。
王都は引かない。
アレクシスは立ち上がる。
「彼女の意思は、私が預かっているわけではない」
「だが、今は必要がない」
それで会話は終わった。
エリオットは一礼する。
「承知いたしました」
だが、その目はまだ諦めていない。
一方、その頃。
私は廊下の角で立ち止まった。
見慣れない男が、補佐官とすれ違っている。
落ち着いた足取り。整った衣装。
王都の人間だ。
視線が、再び絡む。
今度は、はっきりと。
観察する目。
値踏みする目。
私は、胸の奥がわずかに冷えるのを感じた。
何かが、私の名前で動いている。
まだ、確信はない。
けれど。
静かだった日々に、薄い波紋が広がり始めている。
私は、歩き出す。
知らないままでいられる時間が、少しずつ終わろうとしていた。
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