第45話 ここにいる理由が、いらなくなった
朝の光は、柔らかかった。
窓から差し込む淡い陽射しが、床に静かな模様を描いている。森はいつも通りに揺れ、鳥の声が遠くで響いていた。
私は、目を覚ましてからしばらく、天井を見つめていた。
特別な予定はない。
呼び出しも、急ぎの案件もない。
それでも、今日もここで一日が始まる。
以前の私は、ここにいる理由を探していた。
役に立っているか。
必要とされているか。
迷惑になっていないか。
理由がなければ、居場所は続かないと思っていた。
けれど。
今は、違う。
朝食を終え、廊下を歩く。誰かと軽く挨拶を交わし、執務室に入る。
辺境伯は、いつも通り机に向かっている。
目が合い、短く頷き合う。
それだけで、十分だった。
私は書類を整え、今日触れる案件を選ぶ。
選ぶことに、説明は要らない。
触れないことにも、言い訳は要らない。
午後、中庭に出る。
風が少しだけ強い。葉が擦れる音が、柔らかく耳に届く。
私は立ち止まり、深く息を吸った。
ここにいる理由は、何だろう。
王都を追われたから。
辺境伯が受け入れたから。
他に行く場所がなかったから。
どれも、最初は正しかった。
でも今は。
理由がなくても、ここにいる。
それでいいと思える。
誰かに問われたら、うまく答えられないかもしれない。
なぜここにいるのか、と。
けれど、その問い自体が、もう重くない。
理由がなければ、居てはいけない。
その考えが、少しずつ薄れている。
夕方、執務室で辺境伯と同じ空間にいる。
言葉は少ない。
けれど、沈黙は穏やかだ。
私は、ふと気づく。
ここにいることを、証明しなくてよくなった。
必要性を示さなくても、居場所は消えない。
それは、与えられたものではなく、積み重ねられた時間の結果だ。
窓の外で、陽がゆっくりと沈んでいく。
私は、その光を眺めながら、静かに思う。
ここにいる理由は、もういらない。
私は、私のままでいる。
それだけで、この場所に立っていられる。
夜が訪れる。
森が闇に溶け、静寂が深まる。
王都では、まだ何かが動いているかもしれない。
けれど、ここでは変わらない。
私は、灯りを消す。
理由がなくても、ここにいる。
それが、今の私の答えだった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




