表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された悪役令嬢は、役割を与えられない場所で静かに生きる 〜尽くしても報われなかった私を、理由も聞かずに受け入れてくれる領がありました〜  作者: 東雲透


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/98

第31話 静かに閉じられた扉

 王都からの書簡は、昼過ぎに届いた。


 特別な封蝋も、目立つ紋章もない。形式は整っているが、急ぎを示す赤印も押されていない。まるで、重要ではないと装っているかのようだった。


 執務室でそれを受け取った補佐官は、一読してから、机の向こうに座る辺境伯アレクシスへと差し出す。


「……王都より」


 短い言葉。


 アレクシスは封を切り、視線を滑らせた。


 文面は、曖昧だった。


 “以前、王都で補佐的役割を担っていた人材について”

 “現在の所在が確認できるなら、意見を求めたい”

 “差し支えなければ、情報提供を願う”


 名前は、出ていない。


 だが、誰のことを指しているかは明らかだった。


 アレクシスは、書簡を机に置く。


「随分と、回りくどいな」


「直接的な要請ではありません」


 補佐官は、淡々と続ける。


「“情報提供”という形を取っています」


「呼び戻すとは、書いていない」


「はい」


 室内に、短い沈黙が落ちる。


 窓の外では、森の葉が風に揺れていた。


「……どうされますか」


 補佐官の問いは、慎重だった。


 返事をすれば、王都との線が繋がる。

 無視すれば、意図的な拒絶と受け取られる可能性もある。


 アレクシスは、指先で机を軽く叩いた。


「問いが曖昧だ」


「はい」


「何を求めているのか、書いていない」


 情報が欲しいのか。

 人を戻したいのか。

 それとも、ただ所在を確認したいのか。


 どれも、明確ではない。


「曖昧な問いには、曖昧な返事しかできない」


 アレクシスは、静かに言った。


「だが、曖昧な返事は、こちらの立場を弱くする」


 補佐官は、わずかに頷く。


 答えは、ほぼ出ていた。


「……返事は」


「出さない」


 迷いはなかった。


「こちらから主語を与える必要はない」


 書簡は、机の端に置かれたままになる。


 それは、拒絶ではない。

 応答の保留でもない。


 ただ、扉を閉じるという選択だった。


 一方、その頃。


 私は、書庫で静かに本を整えていた。


 王都から書簡が届いたことも、内容も、何も知らない。


 今日も、変わらない午後だ。


 本の角度を揃え、棚の高さを確認する。些細なことだが、整っていると落ち着く。


 窓から差し込む光が、床に細い線を引いている。


 私は、その線を踏まないように歩いた。


 どこかで、何かが動いている。


 そんな予感は、ほんのわずかにある。


 けれど、それが私の元に届かない限り、考える必要はない。


 呼ばれていない。


 問われていない。


 だから、答えなくていい。


 私は本を一冊棚に戻し、静かに息を吐いた。


 王都と辺境伯領の間で、目に見えない扉が閉じられたことなど知らないまま。


 今日も、私はここにいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ