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婚約破棄された悪役令嬢は、役割を与えられない場所で静かに生きる 〜尽くしても報われなかった私を、理由も聞かずに受け入れてくれる領がありました〜  作者: 東雲透


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第22話 誰が設計した?

 視察団の馬車は、辺境伯領を離れてからもしばらく、静かな速度で進んでいた。


 車内には、報告書を抱えた役人たちが座っている。誰かが話し出すまで、沈黙が続いた。


「……妙でしたね」


 最初に口を開いたのは、年嵩の役人だった。


「何が、ですか」


「整いすぎている」


 その言葉に、隣の若い随行員が眉をひそめる。


「褒め言葉では?」


「もちろん、表向きはな」


 役人は、指で報告書の端を叩いた。


「だが、あれは“力で押さえつけて整えた”形ではない。誰かが強く主導しているなら、必ず癖が出る」


 誰かが前に出れば、その人間の色が残る。判断基準、言葉の選び方、優先順位。どれかが突出するはずだ。


「……確かに」


 別の役人が、ゆっくりと頷いた。


「辺境伯殿の采配は的確ですが、それだけで、あそこまで滑らかになるとは思えません」


「補佐官でしょうか?」


「それなら、名前が出る」


 役人は、即座に否定した。


「説明の場で、功績者の話が一切出なかった。質問しても、“決まっていることです”としか返ってこない」


 まるで、誰かを探させないようにしているかのようだった。


「……誰が、設計したんでしょうね」


 若い随行員が、ぽつりと呟く。


 役人は、しばらく考えてから首を振った。


「分からん」


 それが、正直な答えだった。


 書類の流れ。情報の整理。現場の空気。どれもが自然で、意図を感じさせない。


「意図が見えない、というのが一番の違和感だ」


 役人は、そう締めくくった。


「普通は、“見せたい形”がある。あの領には、それがない」


 馬車の外で、車輪が小さく音を立てる。


 随行員は、窓の外を見ながら言った。


「……誰かが、裏で整えている。でも、その人は評価を求めていない」


「あるいは、評価されることを避けている」


 役人は、そう補足した。


「どちらにせよ、表に出る人間ではないな」


 話題は、そこで途切れた。


 それ以上掘り下げても、答えは出ない。名前も、役職も、痕跡もない。


 ただ、“妙にやりやすい領”という印象だけが残る。


 馬車が進む。


 一方、その頃。


 私は、屋敷の書庫で、静かに本を並べ替えていた。視察団が帰った後の、いつも通りの午後だ。


 誰かが外で何を話しているかなど、知る由もない。


 棚の高さを揃え、背表紙の向きを直す。単調な作業が、頭を落ち着かせてくれる。


 ――今日は、少し疲れた。


 理由は分からない。何かをしたわけでもないのに、妙に肩が重い。


 私は、手を止めて深く息を吸った。


 外で、誰が何を考えていようと、今の私には関係ない。


 ここにいて、静かに過ごす。


 それだけで、十分だ。


 私は本を戻し、書庫を出る。


 名前の分からない誰かが、設計したと言われていることも知らないまま。


 今日も、私は私のままで、ここにいる。


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