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願えば初恋  作者: y-r
家電量販店販売員の仕事

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7

「甘味ちゃん。平岡くんが事務所から戻ってきたからら、タブレットに配信されているデータを見て白物コーナー分の値上がり商品を確認してきてくれる?」


柔らかい口調で、そう私に話しかけて来た男性は、白物コーナー全体を取り仕切る我らがリーダー熊野フロア長。


学生時代はずっと柔道をしていたらしくガッチリした体格で身長も180cm以上ある為、お客様の子供に手を振っているだけで怯えられているが、自分では"愛されキャラ"だと言い張っている。


でも現実は、"いじられキャラ"って言った方が正しいだろう。


「了解です。その後、倉庫に行ってきていいですか?フック掛け商品を出すのに什器が足んなくて。」


「うん、いいよ。ついでに梱包用のバンドとエアチップも持ってきてくれる?ドラ洗の展示品を販売しちゃってさ。その流れで展示品を拭く洗剤とタオルも持って来てくれると助かっちゃうなぁ〜。」


「私の用事よりついでの方が多いじゃないですかー!自分で行ってくださいよー!」


理美容品コーナーの前の通路で熊野フロア長と話していると、岸川店長に呼び出されて事務所に行っていた平岡くんが戻ってきた。



「今度は甘味くんを呼んでくれって店長が言ってましたよ。」


「えぇーーー。もぉーー。またぁ?!なんでわざわざ事務所までぇ。平岡くんに伝えればいいじゃ〜ん。」


全く不満を隠さない私に、「店長には用事なら俺から伝えましょうか?とは言ったんすけど。」とそんな所も気が利く平岡くん。


「甘味ちゃん。そんな嫌そうな顔しないで早く行ってきな?」


そんな私を見て苦笑いしている熊野フロア長に対しても私は不満を隠さず。


「だって、店長に呼ばれると確実に仕事が増えるんですよねぇ。今ですらキャパオーバーなのに。」


従業員が少なくなってきて、私達が受け持つ商品担当は徐々に増えていき、そうなると担当するコーナーの作業だけでも手一杯。


「マジそれっす!俺も今、追加で仕事を頼まれたっす。」


確かに平岡くんの手には、岸川店長に呼ばれる前には持っていなかった何かの企画書らしき資料が手に握られている。


「うーん。それは確かにあるあるだけどね。甘味ちゃんも平岡くんも仕事が速くて正確だから、店長も頼りにしてるんだよ。」


「そうですかねー??」


不貞腐れ気味に返事を返してはいるが、決して、熊野フロア長の言葉に納得していない訳じゃない。


私と熊野フロア長とはこの店舗がオープンしてから6年間、この白物コーナーで上司と部下の関係だ。


普段はいじられキャラの熊野フロア長だが、本社から常に注目されているこの大型店のフロア長に選ばれるくらいの人物なので、私には到底敵わない接客知識やお客様対応を身につけていて。


だから私は熊野フロア長の事を、上司として本当に心から尊敬している。



「一つの事しか出来ないような人より、色々な仕事を任せられる君達の存在が、この会社にとって欠かせない存在なんだよ?ほら、若いうちの苦労は買ってでもしろって言うでしょ?いつか、その苦労が実る日はくるんだよ。」


長年"フロア長"という大変な役職についている熊野フロア長の私達に対する想いはありがたい。


だけど、そんな綺麗事では納得出来ない部分もあるのも確かだ。


「でも、その苦労が実っちゃったら、フロア長達みたいに今以上に会社にこき使われる人生が待ってるんですよね?私はそこまでして、この会社に骨を埋める覚悟も忠誠心もありません。店長は残業を減らせって言いますけど、私だって残業したくてしてる訳じゃないし。なんなら、毎日定時で帰りたいんです。………って、店長に直談判してきていいですか?」


身長差が20cmはあるだろう熊野フロア長を見上げる。


「ダメ!それ!絶対!甘味ちゃん、はやまらないで!僕が店長に呼び出されちゃうから!」


「アハハ!甘味さん、それマジウケるっす!」


大事な事だから2回言うが、私は熊野フロア長の事を本当に尊敬している。


「熊野フロア長〜、安心してください。いつもの冗談ですよ?」


しかし、仕事のストレスは熊野フロア長で発散するのが1番だ。


「はぁ〜、良かった!安心したよ〜。甘味ちゃんの場合は、店長にも容赦なく言っちゃいそうだからね〜。」


「さすがにそこん所はわきまえてますよ。」


プチ反乱を起こす度胸までは私にはない。


6年間の付き合いがある熊野フロア長にだから言える発言だ。


「そうだよね。それじゃあ、平岡くん。甘味ちゃんの代わりに値上がり商品のリストチェックをお願い出来る?数自体はそんなに多くないと思うんだよね〜。」


「えっ……、まー、いいんすけど。」


既に仕事を手に握っているのに更に追加の仕事で、口では了解はしたが、平岡くんの顔は全く納得はしていないようだ。


「その間に熊野フロア長は、またタバコ休憩に行くんすかぁ?」


私とどんぐりの背比べな平岡くんも熊野フロア長に容赦ない。だけど、平岡くんも熊野フロア長を慕っているのは言わずもがな。


熊野フロア長は、いじられキャラ兼愛されキャラなのだ。


「いつもサボってるみたいに言わないでよ〜。13時からZOOM会議で新しく始まるキャンペーンの説明を聞かなきゃいけないんだよ〜。だから、甘味ちゃんはとりあえず店長の所に行っといで。平岡くんは値上がり商品のチェックをお願いね。」


「はーい!了解でーす!」


「了解っす!」 


「はい、お願いね。」


まるで父親のような懐の広さの熊野フロア長の微笑みに見送られ、私と平岡くんはそれぞれの場所へと向かって行く。



お昼にはお客様の波は一旦おさまるが、それ以降もまだまだやらないといけない事は山積みなのだ。


接客はもちろん。


売り場担当者の基本的な仕事内容は、定期的に納品される各メーカーからの新製品の展示。


本社から配信されるPOPの張り替え。

商品の在庫チェックに、売り場の整理。

カタログなどのメンテナンスなどなど。


全てを挙げればキリがない程の、作業作業のエンドレス。 


接客メインのはずなのに、接客の合間に作業なのか、作業の合間に接客なのか優先順位すら迷う程、毎日体がいくつあっても足りないくらい。


それを、お互い助け合いながら仕事をこなしていく。




「それじゃあ、甘味くん。申し訳ないんだけど、そう言う事だからよろしゅうね。」


「15日の日曜日ですね。了解しました。」


「いっつも甘味くんにばかり頼んで悪いね。」


結局、岸川店長に呼ばれて事務所に行った私にも、平岡くん同様に更に1つ仕事が追加されたのだった。

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