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もう時刻は23時55分。
皆、ほどよく酔いも回ってきている時間帯だ。
あの後、また平岡くんに呼び戻された私は、結局は元居た席へ。
救いは砂東フロア長がいない事だ。
「甘味ちゃん。次、何頼む?」
「んー、どうしようかなぁ~。熊野フロア長は何を飲んでるんですか?」
「僕はね~。締めのカクテルだよ?甘味ちゃんも飲んでみる?」
そう気取ってグラスを傾ける熊野フロア長の手には、ドピンク色の甘ったるそうなカクテルがグラスの中で揺れている。
「熊野フロア長。お子ちゃまじゃないんですから、そんな甘ったるいので締まる訳ないでしょ。店員さーん!ビール2杯追加お願いしまーす!」
私はいくら飲んでも顔が火照る程度で、今までに1度だって酔っぱらった事がない。
「また~!甘味ちゃん、いっつもそれ止めてって言ってんじゃ~ん!今時はアルハラって言うんだよ?」
「じゃあそれ、俺飲むっす!」
右手を勢いよく挙げ、立候補する平岡くん。
「ダメ!平岡くんはもう絶対飲んじゃダメ!」
必死に止める私に続く者あり。
「そうだよぉ、もう止めな?連れて帰る身にもなれよな~。流石にもうヤバいって」
それは平岡くん被害者の会の植田くんで。
平岡くんの1つ歳上の植田くんと、私。
過去3回、平岡くんが参加した飲み会で、酔った平岡くんの被害に合うのは決まって私達2人で。
きっと、心を許してくれているからなんだろうけど、先ほどから増え続ける平岡くんのボディータッチに、植田くんと目が合い苦笑い。
誰かこの状況から救ってくれる人は現れないだろうか。
切に願う今日この頃。
「ビール2杯お持ちしましたー!」
「あ、こっちにお願いしますー!」
店員さんからビールを受けとると、一杯を私の前、もう一杯を熊野フロア長の前へスタンバイ。
「本当、勘弁してよ~」
「え~~!私まだ、熊野フロア長と落ち着いて一緒に飲めてません~。一緒に飲みましょうよ~。ね!」
ここで繰り出した必殺技のとびっきりの笑顔は効果覿面、百発百中。
実は、飲み会の度に繰り返しているお決まりのパターン。
「もー、仕方ないな~。甘味ちゃんには敵わないよ」
「やった!熊野フロア長のそういう流されやすい性格、大好きですよ!」
「はい、はい。甘味ちゃん、それ決して褒めてはないけどね。じゃっ、乾杯」
「はい!かんぱーーい!、、、うわっ!!」
グラスを合わせ口まで運ぼうとした瞬間、勢いよく平岡くんに肩にのし掛かかられた私は、平岡くんの腕をほどこうにも並々ついであるビールが邪魔をして。
「ちょっと!離してよー!ビールがこぼれるからっ」
両手でガシッ!と、ビールだけは守り抜く!
「俺はー?!俺の事は好きじゃないんっすか?!」
「はぁ?!」
突拍子もない質問に平岡くんを振り返り見てみるも、これじゃ、あまりに顔が近すぎて。
酒は飲んでも飲まれるな!今の平岡くんにもっとも贈りたい言葉。
「植田くん!ボケっと見てないで平岡くんを離してよー!」
「あ、はい!」
完全に八つ当たりしてしまった植田くんには悪いが、さすがの私もこの距離感は照れてしまう。
「2人とも近い近い!早く離れてよ!」
「ひーらーおーかー!お前がまず離れろよ!」
「イーヤーだー!」
「平岡くん!ビールがこぼれちゃうからー!」
私達三人の光景に、周囲は助けてもくれず爆笑中。
そんな中、あんなに願った救世主登場!
それはいつの間にか戻ってきていた砂東フロア長だった。
「バカか!!まず、お前がビールを離せ!」
私が握りしめていたビールをヒョイと取り上げた砂東フロア長は、そのまま私の前に両膝をつき、首もとに絡み付く平岡くんの腕を力いっぱい引き剥がしてくれている。
だけど今度は、砂東フロア長の間近で見るその顔が必死すぎて、助けてくれて感謝はしているが、私は思わずププッと吹き出す始末。
「何笑ってんだよ?!」
「…すいませんっ」
「平岡!お前も早く離れろっつってんだろーーー!」
5分後、事態はやっと終息した。




