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願えば初恋  作者: y-r
歓迎会

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岸川店長を見ると、斎藤さんと楽しそうに話しているから後にしよう。


私は次々と各フロア長にお酌をしてまわり、岸川店長の元に行こうかと思ったが、その途中で新木さんを見つけ隣に座り込み。


「新木さんも、どーぞ」


「これはこれは、ありがとうね。甘味さん」


「いえいえ、遅れて来ちゃったんで出遅れましたけど」


「そんな事気にしなくていいよ。甘味さんには、こっちの方が色々お世話になってるからね。いつもありがとうね。デジタル化が進んでから頭がついていけなくてね」


「いやー。私の方こそ専門的な事を聞かれたらチンプンカンプンで、上っ面な知識だけじゃダメですね。新木さんに頼ってばっかりで」


白物コーナーの私が黒物コーナーに呼ばれても対応出来ているのは新木さんのお陰でもある。


コーナーが違っていても、テレビ等の主要な商品の最新知識ぐらいは頭に入れておかないとお客様対応は難しく。


黒物コーナーにふら~と立ち寄った時には田中さんや新木さんを捕まえ、カタログ片手に新しい商品情報を教えてもらう。


特に新木さんが担当するオーディオ関係は、お客様の方がコアな知識を持っている方が多く、知識の浅い私が話を聞いてもちんぷんかんぷん。そんな時は「新木さ~ん!助けてくださ~い!」と頼ってばかりだ。


「助け合いって事だね」


「フフッ、そうですね。またよろしくお願いしますね」


我が店一番の最長老の新木さんまで回った所で、平岡くんが私にブンブンと手を振る。


「甘味さーん!俺にもお願いします!」


「嫌よ!横にいる植田くんに頼みなさいよ!こっちは暇じゃないんだからね!」


「そんなの差別じゃん!」


普段は私に対して敬語を使う平岡くんが、私にタメ口を使い出したらいよいよ末期だ。


「区別です!植田くん!くれぐれもお酒を注がない様にね!これ以上平岡くんにお酒を飲ませたら植田くんも同罪だからね!」


「はい!了解です!トロピカルパインジュースを飲ませます!」


お酒が飲めないシラフの植田くんには申し訳ないが、平岡くんの面倒を見るのはこりごりだ。


「やめろよ、植田!甘ったるいだけだろ!せめてコークハイにしてくれよ!」


「マジやめとけって!甘味さんに見つかったら前みたいになるぞ?!いいのか?!」


「…そうだった。久しぶりの飲み会すぎて忘れてた。あれ、めっちゃ痛くてさ。一瞬で酔いが覚めたんだった」


「だろうな。すげー鈍い音がしたもん。けど、あれは確かにお前が悪かったぞ」


2人はこっちをチラチラ見ながらコソコソとお喋りをしているが、周りの雑音に紛れて私の耳にはもう聞こえない。だけど、出来た後輩2の植田くんに指示を飛ばせばもう大丈夫だろう。


このまま私は岸川店長に突入だ。



「飲んでますか?」


「お~、甘味くん。相変わらずの酒豪ぷりだね~!さすが!福岡の人はお酒が強いっていうでな!もう私は飲めんよ」


すっかり出来上がっている岸川店長は、いわば同志の私に、事務所でも何回も聞かされている同じ話を繰り返す。


「この前店長会議があってさ、この地区の地方勢は、もう数人しかいにゃーんだってよ。君もそろそろ帰りてゃーんじゃにゃ?」


「まぁ、そうですね~。前の店舗にいた年数より、こっちの方が長くなっちゃいましたよ」


このお店では、遠方地から転勤してきているのは岸川店長と私だけになっていた。


あんなにいたオープン初期メンバーも、正社員では熊野フロア長と斎藤さんと若林ちゃん、後は松本さんと修理コーナーの古川さんの地元勢だけ。


それ以外は、田中さんや福田さん他…社員数名は近隣店舗からの転勤者で。残りは、新入社員で入社した平岡くんや遠藤ちゃんや、中途採用で社員になった植田くんだ。


「このみゃーの日曜日さ、下の子の小学校最後の運動会でさ」


「え。店長その日、出勤してなかったですか?」


岸川店長が日曜日に休む事は滅多にない。

なかなか帰れる距離じゃないから仕方がないのかも知れないが、子供の行事に参加出来ないのは、子供達にも奥さんにも心苦しいと前に話を聞いた時にも吐露していた。


「そうなんだわ。ま、仕方にゃーわな。店長だで。でもさ、砂東フロア長が入ってきてくれて、今はどのフロアにも役職者がおるで来月ぐりゃーは連休をとって帰ってみよみゃーかな。繁忙期になるみゃーに、君もたまには帰ってみたら?私が転勤して来てから一回も帰っとらんだろ?」 


「そうですね。考えときます」


「見やあよ、この写真。下の子の保育園の時でさー。歳を取ってからの子供だで余計にかわゆうてね」

 

3年前のその当時、3人子供がいるうちの1番上の子が高校に入学したてだった岸川店長は、名古屋に家族を残し一人で単身この地へときた。


置かれた環境は違うけど、岸川店長と私は同じ志をもつ同志だ。


しんみり家族が居ない寂しさを語っている岸川店長の話しに、本当に心から家族を愛しているんだな~と思う反面。


お酒に酔って聞き取りにくくなってきた本格的な名古屋弁が解読不能で、頷くしか出来ない私は話しの終着地点を待つ。



「だもんでね。君も家族は大切にした方がええんよ」


きたきた!

ここが区切りがいい所だろう。


私は、待ってましたとばかり、「はい!分かりました!それでは、次の席に回ってきますので失礼します~」と、退散しようと立ち上がろとするけれど。



「でね、甘味くん」


まだまだ続く岸川店長の話しに、私はもう一度その場に座りなおす。


「みゃーから言われはしとったけど、最近特に残業せんようにとか経費削減の通達がよう出るだろ」


「はい」


「それでさぁ、ここだけの話なんだけど」と、岸川店長と2人こそこそ話し。


内容は、遠方地の転勤者の費用を見直す為、地元に戻す話が出ているらしく。


「え!!本当ですか?!」


「うん。その方向で話が進んどるらしんだよね~。だで、今どんどん地元に戻しとるらしんだわ」


「そうですかぁ~。そうなるといいですよね~。店長なんて大体3年周期で移動だからソロソロじゃないんですか?」


「やっぱり君もそう思う?そん時は、今日よりももっと盛大に送別会を開いてね」


「わかりました!その時は私が幹事をしますね!」


「ありがとう。甘味くんも、帰れるとええなも」


「はい!」


岸川店長との話しで、こんなに心が弾んだ事があっただろうか。


もしかしたら、私も地元に帰れるかも!


嬉しい知らせにお酒も進む。



「店長!もう一杯どうぞ。もう店長とお酒が飲める回数も限られてますもんね!」


「気が早いよ~。それに、あまり期待しすぎんでよ~。転勤年数が長い人順らしいからね~。あ、でも。甘味くんは充分長いから結構早いかもなぁ~」


店長の言葉に益々高まる私の期待。

もう心は、皆が待つ地元へと。


「荷物整理しないとな~」


「だもんで、まだ早いって!」


「へへ、そうですよね!」

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