35
「あ、悪ぃ。これじゃ完全に現行犯逮捕の瞬間だなっ」
「笑い事じゃないし!ほら、また見られてんじゃん!」
砂東フロア長はお客様の視線に気付き、ようやく私の腕を離す。
「ごめんごめん。じゃ、続きは歩きながら話すか」
話しが終わらなければ、どこまでついてきそうな砂東フロア長に根負けだ。
私は「仕方ないなー。あっちでいーよ」と、また元来た駐車場を引き返し、従業員専用の扉から砂東フロア長と一階の倉庫前へと戻る。
「何もしてなくても目立つんだから気をつけてよね?!恥ずかしかったでしょ?!」
「今のは俺が悪かったよ。ごめんな?そんな怒んなって」
しょんぼり顔の砂東フロア長は、まるで飼い主に叱られ、耳も尻尾も下に垂らして落ち込んでいる大型犬のよう。
あの頃は、何がなんでも謝る事なんてしなかったのに。
「もういいわよ」
昔もこんくらい可愛げがあれば、あんなに喧嘩はしていなかっただろう。
「で、なんだっけ?えーと、歓迎会に来いよって話しでしょ?わざわざ呼び止めなくても行く予定になってたじゃん」
休憩の時にその話はした筈だ。
それなのに、何で追いかけて来てまで確認が必要なんだろう。コイツのする事は昔から意味が分からない。
「いや、面倒くさがりなお前の事だからな。一応、念を押しとかねーとな」
爽やかな顔をして話しているが、話しの内容は失礼だ。
「アンタといい平岡くんといい、私にわざわざ喧嘩売ってんの?」
「一時が万事だから平岡が心配してんだろ?間違ってんのか?」
そりゃ、仲が良過ぎて多すぎる飲み会をたま~にドタキャンした事はあるが、1回2回の事をわざわざ掘り返さなくても。
いや、3回。いやいや、4回だったっけ?
「そーだとしてさ、別に私が居てもいなくてもアンタに関係ないでしょ?」
「俺はお前が居ないと嫌なんだよ。だからさ、絶対来いよ?」
「え。かわいい」
「べ、別にっ、かわいくはねーだろ?!」
若干耳が赤く染まった砂東フロア長には申し訳ないが、決して愛くるしくて言った発言ではない。むしろ哀れみに近い感情だ。
「まだここに来て一週間だから、飲み会でぼっちにならないか心配なんでしょ?それなら大丈夫だって。自分の顔に自信持ちなさいよ。黙ってても誰かしら寄ってくるわよ」
安心して?と砂東フロア長の腕を強めにポンポン。
「アホか?!ガキじゃねんだぞ?!そー言う話しをしてんじゃなくて」
一階にいたエレベーターが2階に上がって行く音がして、このままでは誰かに2人でいる所を見られてしまうと、砂東フロア長の話しを途中で遮り。
「分かったって。行く行く!行けばいんでしょ?絶対とは言い切れないけど多分行くから。大丈夫!」
「だから保険かけすぎだろって!何で素直に行くって言えねんだよ?!」
「はいはーい!行きますよ!行けばいんでしょ!じゃ、準備もあるし、もう帰っていいでしょうか?」
本当、面倒くさい奴。
ここまで言ってようやく信用したのか、砂東フロア長はニコッと笑い。
「おう!もうだいぶ暗くなってきてるみたいだから気をつけて帰れよ?」
駐車場に出れば、さっきまではついていなかった天井の電灯が点灯していて。
せっかく定時で帰れる予定だったのに、時刻はすでに19時30分になろうとしている。
「アンタが呼び止めなければ明るい内に帰れたわよ!」
「ごめんって。そこまで見送るからさ」
「必要ないわよ!アンタ今、仕事中なのよ?!早く売り場に戻んなよ?!」
「だって今休憩中だし。そんな事より、早く帰れって。歓迎会、遅刻すんなよ」
「しつこいなー。分かってるってばっ」
結局私は砂東フロア長に見送られ、よくやくお店を後にした。




