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ようやく自分の部屋に着いた後、想定外の時間ロスに結局お腹が空き過ぎて。
気を紛らわす為につけたテレビ画面に映し出された、チャーシュー増し増しラーメンに釘付けになり。
「何でこんな時間にラーメン特集なんてやってんのよぉ!罠じゃない!あーー!ダメだ!やっぱり我慢できな〜い!」
常備しているインスタントラーメンを食べるという暴挙に出た末。
「若林ちゃんも面白いって言ってたしなー。」
1話の途中で見るのを中断していたあの恋愛ドラマの続きがどうしても気になって、レコーダーに録画されていた2話までついつい見てしまい、結局私が眠りにつけたのは2時50分を過ぎていた。
そして、朝________
「頑張れ私っ!!まだ間に合う!いや、間に合わせなければ!」
3日前からテーブルに置きっぱなしにしていたグミの袋の中に手を突っ込み、そのまま口に3個放り込み、本日の朝食終了。
「お弁当、、、いやいや無理だなっ!お昼にコンビニで買お。」
8時に起きれば余裕だろうと、携帯電話のアラームをセットしたまではいいが、結局目を覚めしたのはその45分後。
「私のバカー!何で二度寝しちゃってんのよっ。」
それでもギリギリ9時15分に家を出れば間に合うと、猛スピードで準備中!
こんなんで前日の疲れなんて取れる訳もなく。
眠たい瞼を擦り、何とか頑張って急足しで会社まで辿り着いたはいいものの…。
「すでに疲れた。やっぱりタクシー使えばよかった。」
お店の敷地内に入り、女子更衣室までの道のりすらも長く感じる。
「あれぇ?先輩、どうしたんですかぁ?何か今日顔が薄いですねぇ?」
更衣室に入った瞬間、遠藤ちゃんからの軽いジャブ。
「え、そうかなぁ?ま、秋先取りって事でナチュラルメイクなんだよ。」と、自分で言っときながら何て苦しい言い訳だろう。
別に遠藤ちゃんが悪い訳じゃないが、朝からバッチリな程の流行りのメイクを見せつけられると、自分の10分足らずで済ませた時短メイクに今更ながらに劣等感を感じてしまう。だけど、その劣等感ですら一秒後には忘れる始末。
「やばい、眠たすぎる。」
口に手を当て、人目もはばからず「ふぁ〜〜!」と大あくび。
「先輩も夜更かししたんですかぁ?」
「まぁちょっとねー。私もって事は、遠藤ちゃんも寝るのが遅かったの?」と話しながらベストに袖を通して、持ち物チェックをして、ロッカーの内扉に付いている鏡で顔を確認すると、遠藤ちゃんの言う通りいつもよりメイクは薄いし前髪は乱れておでこは全開で酷い有様だ。
「私じゃないんですぅ。さっき砂東フロア長に会った時、眠みー!って先輩と同じようにアクビしてたからぁ。砂東フロア長って本当に良いですよね~。大人の魅力がありつつ、たまにでる子供っぽさって言うか。私、キュンキュンしちゃう。」
「あー、そっか。よかったね。」
辛うじて笑顔は出せたが、まだお酒も入ってないのに朝から胸焼けしそうな話だな。
私も自分の渇いた心に潤いは欲しいが、それはアイツからではなく。
「私、準備出来たから先に行くねー。」
砂東フロア長の話なら興味ないなと、またアクビをしながらロッカーを出ていこうとする私を、遠藤ちゃんは呼び止める。
「今日の歓迎会なんですけど、先輩は誰かの車に相乗りしますかぁ?店長がお酒を飲む人は絶対に車を運転させないようにって。先輩は運転できますもんねぇ。」
歓迎会の幹事に自ら立候補した遠藤ちゃん。準備期間が数日しかなかったにも関わらず、テキパキ仕切ってくれてその手際の良さに感心しつつ、仕事でもそれを発揮してくれたらいいのになぁ〜、、、なんて事は口が裂けても言わない。
遠藤ちゃんは一度へこむと、メンタルが回復するのに時間がかかるのだ。
「あーー、そうだなーー。うちのお店の行きつけの居酒屋でしょ?私、今日はフル勤務じゃないから一回家に帰ってからそのまま行くよ。歩いていけない距離でもないし。」
「分かりましたぁ。じゃあ、22時スタートで変更ないんでお願いします。」
「はい、はーい。」
軽く二つ返事で返し、私は更衣室から出ていった。
来客数が多く見込まれる日曜日は、岸店長指示でその日出勤する従業員のほとんどが朝から出勤している。
今日は歓迎会もあるから尚更なのか、白物コーナー全員が朝から出勤となっていて。
「おはようございます!」
そして今は、月2回の頻度で行われるコーナーミーティングに参加中。
白物コーナーのパートアルバイトも含む8人が円を描くように並び、岸川店長から砂東フロア長に伝えられた本社からの連絡や数字の話をメモしていく。
「冷夏の影響でエアコンコーナーの売り上げはもう見込めません。今週はまだ暖房商品も入荷はしないとの事なので違う商品にシフトして、売らないといけないメーカー商品の販売に取り組んで下さい。今日はとりあえず残り1台になっている3アイテム潰しましょう。お客様に言われた通りに商品を販売するのではなく、キャンペーンメーカーの方を誘導販売でお願いします。」
バインダーに挟んだ資料を見ながら話す砂東フロア長の手には、すっかり自分の物にしている私のペンがしっかり握られている。
あれから何度か取り返そうと試みたが、みんなの認識ではあのペンは砂東フロア長の物と認定され始め、いま私が取り返した所でもう時既に遅しだろう。
なんなら、色違いで買った私が使っていたエメラルドグリーンのペンですら、お揃いだと言われると面倒くさいから使い辛くてロッカーに閉まったままになっている。
砂東フロア長の話しそっちのけで、もう私の元に返ってくる事はないだろう私のお気に入りだったペンを凝視しているのに気付いて、得意げにクルッとペン回しを披露しながらドヤ顔を決め込んでいるアイツの図太い神経が信じられない。
「店長の予想では本日が今月のピークになるそうです。他のコーナーからの応援要請もあると思いますが松本さんとパートさんは白物固定で接客をお願いします。甘味と平岡はトランシーバーで呼ばれたら即対応で。アルバイトの方はレジフォローに回って下さい。本日は日曜でお客様の引きも早いと予想されてますので、早めに売上げを確保していきましょう!」
皆の前で堂々と話している砂東フロア長を見ていると、なんだか不思議な感覚にとらわれてしまう。




