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願えば初恋  作者: y-r
私になくてアイツにあるもの

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「遅くなっちゃったな。」


いつもならお風呂も終わって、ベッドの上でのんびり自分時間を満喫している頃だ。


「はぁ〜、疲れた。」


こんな時間帯でもきちんと歩いて帰る。


夜中だからと言って、家の近くのコンビニまで続く今歩いてるこの道は、道路沿いという事もあり営業中の外食店などの明かりもあって暗さを感じないから1人で歩いていても全然平気だ。


黙々と歩いている私の目線の先には、いつもの通い慣れたコンビニがあり。



「お弁当買っていこうかな。でも、さすがにこの時間に食べちゃうと太るよな~。しかも明日は歓迎会があるし。」


実は、放置したまますっかり忘れていた砂東フロア長の歓迎会の返事。


事務所の掲示板に張り出されていた出欠確認表には、いつの間にか、参加する欄に甘味の印が押してあり。 


きっと平岡くんの仕業だなと問いただしてみたけど「自分じゃないっすよ。」って言ってたっけ。


でもまぁ、若林ちゃんも参加するなら私も参加でいいんだけど。



「よし!やっぱ今日ぐらい我慢するか。」


そう決意し、後ろ髪を引かれながらも私はコンビニを通りすぎる。



コンビニからアパートまでは徒歩で10分もかからない。


そう時間はかからないけど、今まで明るかった交通量の多い通りに対して、コンビニを左に曲がると住宅街に入るまでの道のりは一気に街灯が少なくなり、この10分足らずの道のりだけはいくら通い慣れているとはいえチョット怖い。


だから自然と早歩きになってしまう。



なるべく楽しい事を思い浮かべようと頭を捻る。


「何かあったっけかな?んんーーー、、、」


生活に彩りがない私にとって、楽しい事を考えるのにこんなに頭を悩ませないといけないのが悲しい。


結局は無心で歩道を歩く私は、後ろからのライトの灯りとタイヤのゆっくりと近づいてくる音に気付き、横目で車が通りすぎるのを確認する。


少し先で、横を通りすぎた車がハザードランプをつけ停車した。



月明かりだけが頼りのこの道。


次の街灯はまだ先で。


そんな中、どう見ても知らないブラックのSUV車が、停車したままアクション一つ起こす事なく。


誰か降りてくるのかと思いきや、そんな様子もない。



「え、何??」


思わず一瞬立ち止まってしまったが、この道を真っ直ぐ行かなければアパートまで帰れない。


早歩きでその車まで近づき、そのままの勢いで通りすぎようとした時だった。



「おい!」


ウィーンとゆっくり開いていく窓から、男の人の低い声。


「え。」


6年間通い慣れた道で初めての出来事に、私の心臓は爆発寸前で、私は脇目もふらず一直線に突き進む。



「おいって!止まれよ!」


怖っ、怖っ、怖っ、怖っ!!!


あんな大声で止まれ!なんて言われて素直に止まるわけがない。


「あ。」


もしかして、道を尋ねたいだけかもしれないと一瞬頭をよぎったが、それなら、あんな怒鳴り声ではないはずだ。


ここ近年、物騒な事件をニュースで頻繁に見る。


もしこのまま捕まりでもしたら…明日、世間を騒がせるのは………私?!


やっぱ無視が1番だ!!

でもこのまま直接帰って、アパートまでバレたらどうしよう?!


警察に行く?!

いや、遠すぎる!


どうする?!!

どうしよう?!!


バックから急いで携帯電話を取り出して、お守りがわりにギュッと握りしめる。


それでもその車は、ゆっくりと私と平行しついてくる。


「おい!」


やっぱり私の事を呼んでいるの?!


携帯電話を握る手に力が入る。


「おーーいってば!」


もうダメだ!

走ろう!!!



「聞こえてんだろ!甘味!無視すんなよな!!」


名前を呼ばれ、横についてくる車を勢いよく見ると、そこには全開にした窓に左手をつき私を睨み付けている砂東フロア長の姿があった。



「ちょっと!!何してくれてんのよ!心臓に悪いでしょ!!めちゃめちゃ怖かったんだから!こんな暗い道で女の人に話かけちゃダメでしょ!!警察に電話しようと思ったんだからね!!」


安心感から近所迷惑すら考えず、大声で文句を捲し立てる。


「とりあえず乗れ!」


「は?!何でよ?!」


「家まで送ってくって言ってんの!ってかさ、先に店出んなよ!元々送るつもりだったのにいないから焦ったんだぞ!一か八かこっちの方向来て見つけれたからいーものの!帰るなら声かけろよ!」


私同様文句を捲し立てる砂東フロア長。


「は?!店長にはきちんと"失礼しまーす。"て言ってきたわよ!」


「違う!俺にも声をかけろっつってんだろ!」


「何でよ!アンタは更衣室に行ってたし、こっちは早く帰りたかったのよ!わざわざ手伝ってやったのに、なんなのよ!もうっ!!」


私は苛立ちを抑えられないまま、砂東フロア長を置いてスタスタ歩きだす。



「ちょっ?!甘味!乗れって!」


後ろから、砂東フロア長の声がするけれど、もう相手にしてられない。


握りしめていた携帯電話もバックになおし、気にせず足早に真っ直ぐ進んで行く。


アイツに関わると、やっぱりろくな事がないな。


「はぁ〜、早く帰ろ。」


今日こそは、浴槽にお湯をためて入りたいな。


目指すは愛しのマイホーム。



あ、明日は燃えるゴミの日だ。

ゴミ袋も少なくなってきてたから、買い足さなきゃな〜。


朝方も寒いし、そろそろ毛布も出そうかな。





「甘味って!待てよ!」


「キャッ!」


急に腕を捕まれグイッと引っ張られたかと思うと、何故か私は一瞬で砂東フロア長の腕の中に閉じ込められていた。



「何やってんだよ?マジで心配だから、こんな暗い中一人で行くなよ。」


耳元で発せられるその言葉に、さっきまでの乱暴さはなく。


だけど、コイツは何故私を抱き締めてるのか?

彼女がいるのに、何で平気でこんな事が出来るのか?


「苦しいから離してよ。」


「なら車に乗れよ。」


「はぁ?嫌よ!」


「じゃあ俺も嫌だ。車に乗るって言うまで離さない。」


いっこうに弱まらない腕の力に、どうにかここから抜け出そうと必死でもがき、砂東フロア長を見上げる。



「え、帰国子女だっけ?」


ひねり出した私の答え。


「は?お前、何言ってんだ。」


砂東フロア長から返ってきた返事。


だよな。

そんな訳ないよな。


砂東フロア長、英語の中間テスト18点だったし。


「とにかく乗れよ?な?」


心配そうに私を見つめるその眼差し。

私も伝えたい事があると、砂東フロア長を見つめ返す。


「ねぇ、砂東フロア長。」


「何?甘味。」


本来なら、こんな顔面の持ち主に抱き締められたら照れない訳がないだろう。


それに、ドラマの様なこの展開も私好みではあるが。


なんせ相手が、砂東フロア長じゃ…。


「ここが私のアパートなのよ!早く離しなさいよねバカ!!」


私の言葉に、砂東フロア長は私のアパートを見上げる。


「お前ん家、ここなんだ。ふーん。……店から近いのな。」


「そうだけど、何よ。」


ようやく力が緩まった腕から私は脱出成功。


「いや、何でも。…それよりさ、せっかくだから今から部屋に行っていい?」


「いい訳ないでしょ。」


「ククッ、そうだよな。もう遅いしな。」


そういう意味じゃない。


こういうズレている所も、昔から変わらない。


まともに相手をするのも疲れてしまう。



「もういいや。そう言う事でも……。じゃ、今日はもう遅いから帰りなよ。私達明日もまた朝からなんだよ?それに私、もう限界。」


「っだな。俺も帰るとするか。」


「はーい。そうしてね。じゃあね。」


「あ、ちょい待ち!」

 

「なによ!早く言ってよ!」


「あのさ、お前の携帯番号教えろよ?番号さえ知ってれば、こんな時すぐに連絡が取れるだろ?」


「やだ。」


「一言目にはヤダヤダヤダやだ!って!たまには素直に言う事聞けよな!まぁ、いいや。もしお前が教えなくても他の奴に聞けばいいだけだし。平岡とかホイホイ教えてくれそうだしな。」


私がコイツの事を毛嫌いしているのを知っている平岡くんの事だから、そんな軽はずみな事は行動はしないはず。


とも、言い切れないんだよな~。

 

情報通の平岡くんだからこそ、あの口の軽さは凶器だ。

自分の携帯番号は自分で守るしかない。



「てゆーかさぁ、私の番号なんか必要ないでしょ?用があるなら他の女の子の携帯鳴らしてよ?皆知ってるって言ってたよ。」


「あれは聞かれたから教えただけで、とりあえず俺はお前のが知りたいの!早く教えろよ?お前は俺の番号知ってたじゃん。」


「あーー。でも、今は知らない。すぐシュレッダーしたから。ゴミ箱にポイしなかっただけでも感謝してよね。」


個人情報取り扱いマニュアルにのっとっての、正しい個人情報の取り扱いをしたまでなのに砂東フロア長は物凄く不満顔だ。


「…ダメだった?」


「当たり前だろ!早く携帯出せよ!じゃないと、、、」


何をするかと思いきや、大きく息を吸い込んだ砂東フロア長は、そのまま第一声を発しようとし。


「甘っ!!」


あきらかに私の名前を大声で出そうとしている砂東フロア長の口を慌てて両手で塞ぐ。


「バカ!こんな夜中に何してんのよ!近所迷惑考えなさいよ!!」


「なら、早く教えろよ。じゃないと、また、、」と、砂東フロア長は私の手をいとも簡単に除けて、同じ行動を繰り返す。


「わかった!わかったからそれやめてよ!本当ガキ!信じらんない!じゃあ、言うわよ!0×0-……。」


「俺の番号も教えとくから携帯だせよ。」


「私は別に大丈夫。」


「全然学ばねー奴だな。」


再び息を吸い込み出した砂東フロア長に慌てて携帯電話をバックから取りだし、画面を操作しこれで番号交換終了だ。


「じゃ、次はLINEな。」


「は?」


「LINEの方が連絡が取りやすいだろ。QRが手取り早いか?」


それじゃあ、今までの時間はなんだったのか。


自分の携帯電話を操作しだす砂東フロア長に、仕方ないなと提案する私の妥協案。


「メアドでいいでしょ。」


「それはいらない。」


秒でポイっと一蹴された妥協案。


気軽に使えるLINEなんて教えたら頻繁に連絡がくるのは目に見えている。


私たちのやりとりはまた振り出しだ。



「LINE?それこそ必要ないでしょ?何かあれば熊野フロア長にLINEするわよ。」


「お前の上司は俺だろ?!上司が部下の連絡先しらねーでどうすんだよ?!熊野フロア長に教えてんなら尚更教えろよ!」


ど正論に怯む私。

もうこれ以上、拒む手段を持ち合わせていない。


どんどん搾取される私の個人情報と私の体力。


「なにー、このアイコン。」


センスを疑うようなアイコンを見ても、もう笑い飛ばす気力すらもない。


「フッ、お前のもだろ。なぁ甘味、帰り着いたらLINEしてい?」


砂東フロア長も、今日はだいぶ疲れたのだろうか。

もしくは、もうお眠なのだろうか。


自分が発する言葉すら脳で処理しきれてないんだな、きっと。


「勘弁してよ。私もうクタクタなんだよ。それにさ、明日は歓迎会もあるんだよ?私たち、もう若くないんだから流石に明日に響くって。」


「そっか。悪かったな。じゃあ、もう帰ろうかな。」


「それさっきも聞いたし。今度こそは絶対よ!絶っっ対帰ってよ!」


「おう!」


白い歯を見せニコッと笑う砂東フロア長の顔は、疲れ知らずか、こんな時間でも爽やかだ。


そんな笑顔に見送られ、私はやっと砂東フロア長の元を後にする。


「甘味っ。」


アパートの階段を登り出していた私は足を止め。


「何ぃ?!もう帰るんじゃなかったの?!」


「おやすみ。」


何でコイツはっ。


私は返事を返さず階段を登り出す。


「甘味!おやすみって!」


そういえば、あの頃もそうだった。

一緒に帰っていた帰り道。


別れ際、「バイバイ!」と手を振る砂東くんを一瞥して、そのまま帰ろうとした私の名前をしつこく呼んで。


何でコイツは、全く成長してないんだ。


私は肩をガクッと落とし。



「もーーー!!はい、はい、はい、はい。おやすみ!」


「じゃあな!」


やっと帰ってくれる砂東フロア長の車を確実に見送った私の携帯には、使う予定のない砂東フロア長の携帯番号と変なアイコンのLINEだけが残った。

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