28
岸川店長が告げたタイムリミットまでは後10分。
慌てて乗り込んだエレベーター内。
「あっ!倉庫の鍵借りなきゃじゃん!」
閉まった扉を開けようと、開閉ボタンを押した瞬間。
「それなら大丈夫。初日に俺もスペアキーを貰ったから。」
私が開けた扉を、砂東フロア長は開閉ボタンを押し一階のボタンも押す。
「はぁ?!それじゃあ、アンタにこき使われてた時に既に持ってたの?!それなら気を利かせて貸しといてよね?!私、一回一回事務所に借りに行って一回一回持ち出し表に印鑑押してたんだからね?!」
「あー、それは確かに面倒くせーな。」
人ごとの様に半笑いの砂東フロア長に怒りが募る。
「アンタのせいでしょ!」
あの頃、何回この台詞をコイツに言い放ったか。
「ハハ、そだな。」
この軽い返答も私の気持ちを逆撫でるには充分な要因で、砂東フロア長とは根本的に性格が合わないんだと思う。
「反省してよね!全く!」
「へいへい。」
「だから、いちいち返事が軽いのよ!上司じゃなかったらぶん殴ってるわよ!」
「お前、あの頃から何も成長してないじゃん。」
「アンタにだけは言われたくないわよ!」
なんて文句も言いながら、台車に目一杯の荷物を乗せてエレベーターを3往復。
急いで一階倉庫へと荷物を降ろしていく。
倉庫の重い鉄扉にストッパーをはめ、閉まらないように扉を固定させて、どんどん奥へと流し込んでいく流れ作業。
「もうヘトヘトなんだけどっ!」
この台詞が、冒頭での私の台詞だ。
「マジで悪りぃーと思ってるって。後少しだから頑張れよ。」
「頑張れよって、もう充分頑張ってるわよ!」
文句を言い合いながらも、次々と山積みされる商品達。
昨日の分と合わせると何とその数50点。
もう長い事家電量販店で働いているが、こんな光景見たことない。
「お金持ちっていいなぁ〜。結婚するなら、やっぱお金持ちよね〜。お金さえあれば全部満たされてるじゃん。」
積み上がった商品を見上げ、しみじみと呟く。
「29にもなってまだそんなくだらねー事言ってんの?お金が大事とか寂しすぎんだろ?お前の恋愛観どーなってんだよ。」
ガサツな筈の砂東フロア長が恋愛観を語れる程の経験をしてきたのか?
疑問は残るが、まぁこの顔だから人より恋愛経験の数は多いのか?
それじゃあその恋愛観とやらを聞かせてもらおうかと、私は腕を組みながら砂東フロア長に問う。
「そんな事言うなら、砂東フロア長は何が大事なの?」
「そりゃ、愛だろ?当たり前じゃん。愛があれば心は満たされんだろ。」
そんな恥ずかしい台詞を躊躇いもなくサラッと言っちゃうなんて、本当にコイツは…。
「なにそれ!超うける!」
アホだ、アホ!
そんなの当たり前じゃん!
それがベースにあっての話でしょ??
性格とか容姿とか言うかと思ったら、まさかの"愛"だなんて!
聞いた私がバカだった。
「甘味!愛を笑うなよ!」
また出た臭い台詞に、私は抱腹絶倒。
「違う!アンタを笑ってるんだって!もう本当やめてよ、お腹いたいー!!今さら純情ぶらなくていいから!本当は今までもその顔を使って女性をとっかえひっかえだったんでしょ??」
「はぁぁ?な訳ねーだろ!俺は一途だっつの!」
「一途って…。その人しか見えないって事だよ?一人の人をずっと想ってるって事だよ?ちゃんと意味分かってる?」
「分かってるよ!分かってるからこんなに苦しんだろ!」
眉間にシワを寄せ私を睨み付ける砂東くんの表情は、どこか切なそうで。
彼女と、苦しい恋でもしてるのだろうか?
あんなお手製弁当作ってもらってるのに???
それって矛盾してない??
でも、人には言えない二人だけの悩みを抱えているのかも。
まさか、不倫…な訳ない…よね?
だから、本社から店舗に移動になったとか?!
いや、でも…。
面倒くさい奴ではあるけど、人の道を逸れる様な事をする奴ではなかった。
仕方ない。
ここは私が謝っとくか。
「ごめん。さすがに言い過ぎた。謝るから、そんな睨まないでよ。」
「いや、俺の方もムキになりすぎたし。もういいよ。」
「そっか。…じゃあもう帰ろうよ。時間すぎちゃってるよ。」
「あぁ、そうだな。」
今の時刻は23時5分。
いまだに私から視線を反らさない砂東フロア長に気まずさを感じ、捲っていた袖を直しながら私は一人そそくさと倉庫を後にした。




