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願えば初恋  作者: y-r
アイツの彼女

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20時50分になり、閉店ミュージックもなり出して、私は帰る気満々で今日もはかどる閉店作業。待ち侘びたこの時間に、動きも機敏に手慣れた動作でこなしていく。


頭の中は、今日の夜ご飯は何にしようかな〜とか。そういえば、加入している動画配信サービスで前から気になっていた映画が配信されたから見ちゃおっかな〜とか。閉店までに後10分あるにも関わらず、仕事の事なんて一切考えてはいない。



「もうお客様はいないな。よし。」


商品案内が流れているディスプレイも次々止めていき。


レジの方に目をやると、斎藤さんも最後まで残してあった1台のレジ閉めにとりかかっているようだ。


「順調順調。これなら早く帰れるな。」と呟いた時、お客様も見当たらない店内に一本の電話が響き渡る。



「えぇ…。」


これは……絶対的に嫌な予感。


こんな時間にお店の電話がなるなんて、大抵ろくな事じゃない。



電話機から遠い私は、そのまま作業を続行し様子を伺う事にする。


「お。」


鳴り止んだ電話に一安心。

どうやら、誰かが電話を取ってくれたみたいだ。



<砂東フロア長、砂東フロア長、桑原様からお電話です~。>


その声は携帯電話コーナーの植田くん。


<砂東フロア長は今、他の電話にかかってます~。>


事務所で経理作業を任されている、斎藤さんより1つ年上の福原さんが返事を返す。


<了解しました~。代わりに要件を聞きます!>


また植田くんが返事を返して、30秒の無音の後。



<すみませーん!今から買い物に来たいって言ってますけど、どうしたらいいですかー?>


<砂東フロア長が桑原様に折り返しするそうです!折り返しの番号を聞いて事務所まで持ってきて欲しいとの事です!>


植田くんと福田さんのやり取りを聞いてるだけで関わりたくない内容だ。


「クワバラ、クワバラ。」


桑原様だけにね!

なんちゃって!


近くに誰もいない事をいいことに、普段口が裂けても言わないようなダジャレが口をつく。


マイホームに帰れる喜びは、私の気持ちをここまで浮かれさせる。


そんな私の横を、植田くんは慌てた様子で事務所へと走っていった。



その5分後____


〈甘味くん!甘味くん!大至急事務所へ!〉


〈斎藤くんは、まだレジは締めんように!〉


岸川店長からのトランシーバーの声は慌てている様子だ。


白物コーナーの閉店作業が終わった私は斎藤さんを手伝おうと既にレジカウンターの中に居て、斎藤さんと目を合わせ、長年の感で事態を察した私達二人の表情は一気に暗くなる。



「甘味、店長が呼んでるよ。ここはいいから事務所に行ってきな。」


「何で私なんですかー?!残業確定じゃないですかー?!」


こんな所で駄々こねても仕方ないでしょと斎藤さんに諭され、渋々事務所に向いドアを開けると、事務所にいた皆の視線が私に一気に集まった。



「え?何ですか?」


その光景に、思わず一歩ひるんでしまう。


「甘味、ごめんっ。まだ残ってて。」


「えぇーー!無駄な残業するなっていっつも店長が言ってるじゃないですか。」 


ここぞとばかりに日頃の恨みを込め反論する私に、「これは必要な残業だ。」なんて言いつつ、砂東フロア長も慌てている様子だ。


「トランシーバー聞いただろ?もうすぐ桑原様が買い物に来るんだけど、この前の分に更に20個ほど商品を追加したいらしんだ。だから、昨日対応して貰ったお前にも居てもらって、」


早口で話しながらも、昨日私が作成して砂東フロア長のデスクに置いておいた配達伝票を探しているんだろうが、お世辞にも片付いているとは言えない砂東フロア長のデスクには沢山の書類や伝票が置いてあり、その中からすぐにお目当ての伝票を見つけるのは至難の業だろう。


だからこの前、別件でデスクに伝票置いた時に、ちょっとぐらい片付ければって言ったのに。


私はため息混じりに砂東フロア長のデスクに近付く。


「でもそれは、砂東フロア長が対応しますよね。」と、ガサゴソ探している砂東フロア長のデスクまで行き、その伝票を見つけて砂東フロア長に手渡す。



「それはそうなんだけどさ。商品が決まったら、それをどんどん包装していってくんね?じゃないと、明日朝イチ取りに来る出庫便に間に合わないんだ。その便に乗せれなかったらさすがにアウトなんだよ。」


「えぇ、、、。」


どんなに泣きついてこようが私の知ったこっちゃないと見捨てるつもりでいたのに、いざその場面に直面すると砂東フロア長の困っている様子に判断が鈍り。


「それなら人手は多いほうが…。」


断れないなら道連れを作りたい。

私1人がババを引くのは絶対嫌だ。


目線を移した私に対して、店長に見えないように顔を帳票で隠しながら、必死の形相で"デート"だと口パクでアピールしている経理担当の福原さん。


そうだった。

今日は旦那さんと仕事終わりの月1デートの日。

結婚して8年経った今でも、夫婦円満で居られるのはこの月1デートのお陰だと言う。


そんな大事な日を仕事で潰させる訳にはいかない。


「えーーーと。誰がいいかなーー。」


それなら他の道連れを…と植田くんと視線が合うが、植田くんの手先の不器用さは嫌と言う程知っている。


「そんな憐れんだ顔しないで下さいよっ。」


「まだ何も言ってないでしょ。」


何も言ってはないが、あの不器用さは破滅的だなと、この前植田くんが一生懸命にドライヤーを包装していた様子を思い浮かべて。


「フッ。」と鼻で笑う私に「ほらっ!またっ!」と植田くん。


そんな私達を見て、「人数は最小限に絞ってね。残業代がかさばるでよ。」と、岸川店長。


「いやーー、人数が多い方が効率的じゃないですかねぇ。」


私は恐る恐る提案するが、その提案も岸川店長に直ぐに却下され。


「甘味、悠長に考えてる暇はないんだって。とりあえずお前は決定な!」


本当は断りたい。

断りたいけど、皆の視線が痛い。


これは断りでもしたら非難ごうごう、集中砲火、そんな勇気は私にはない。


そんな事をわざわざ事務所で言って断れない雰囲気を作るなんて。


砂東フロア長の策略にまんまとはめられた。



「…はい、はい。お手伝いしますよ。」


「さすが甘味!サンキューな!」


〈砂東フロア長~!桑原様お見えです!〉


斎藤さんのトランシーバーからの呼び掛けに事務所の時計を見ると、閉店1分前。


「甘味行くぞ!」


「はい、はい!わかってますって。」


私は砂東フロア長の後につづき事務所を後にした。
























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