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願えば初恋  作者: y-r
アイツの彼女

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そして話しは、一晩明けてまたまた遅番だった土曜日に戻り。


「あー、ここに入れてたんだった!すっかり忘れてた!」


数日間忘れていた引き出しチェックをしていると、無くしたと思っていたシャチハタを発見し。


「良かったー。見つからなかったらネットで注文しなきゃって思ってたんだよね。」


"甘味"なんて苗字のシャチハタなんてどこにも売っておらず、気軽に百均で買える苗字が羨ましい。


「無事シャチハタも見つかった事だし。さ、売り場に出よっかな。」


事務所で売り場に出る準備を済ませた私は、白物コーナーへと向かっている。


お客様駐車場を横切った時に、停車してある車の台数がいつもの土曜日より少なかったから大体の予想はついていたけど、店内のお客様の数はやっぱりまばらで。


そういう時は、次の日の日曜日にその反動がくると岸川店長がよく呟やいていて、この大きい店舗を任されている店長だけあってその読みはよく当たる。


それを考えると、明日に備えて今日中にやらないといけない事を片付けておいた方がいいだろう。


「お疲れ様ー。あれ?砂東フロア長は?」


朝礼の内容を確認しようと、冷蔵庫コーナーにいる平岡くんに声を掛け。


「お疲れ様っす!砂東フロア長ならアッチで接客中っす。」


平岡くんが指差した先には、黒物コーナーまで遠征中の砂東フロア長の後ろ姿があり。



「聞いたっすよー!昨日は大変だったみたいっすね!」


「そうなのよ!閉店時間までかかっちゃってさ!まぁ、後は砂東フロア長に任せたから私はする事ないんだけどね。でもねー、全部包装が必要って言ってたんだけど呑気に接客してて大丈夫かな。」


「あー。それならあちらっす。」


今度は逆を指差す平岡くん。


その指差す先を見てみると、数名のレジ者が沢山の商品に囲まれて、せっせと包装作業をしていて遠くから見ても大変そうだ。


「朝からレジの人達が一生懸命やってるっす。」


「私には自分でするって言ってたのに!うわっ、やっぱりイケメンをフルに活用してるわね!」


私の言葉に平岡くんはアハハ!と声に出して笑う。


「甘味さん。それって褒めてるんっすか?けなしてるんっすか?でもまぁ、はじめは砂東フロア長がちゃんと自分でしてたんっすよ?でも、レジの人達がどーしてもやらせてくれって。砂東フロア長はレジの邪魔になるからって断ったんですけど、目立つ砂東フロア長があそこに居たら、女性のお客様から次々話かけられちゃってて。」


レジに立っているだけで売上が寄ってくるなんて羨ましいな、と思う私は腹黒なのか。


「それじゃあ引継ぎも出来ないわね。売り場も暇そうだし人数も揃ってるから、今の内に1番に入っちゃえば?」


「いいっすか?良かった〜。実はすでにお腹空いてたっす!こんな早い時間に入れるって久しぶりっすね!」


年に一回あるかないかの早い時間のお昼ご飯に平岡くんはニッコニコだ。

私ですらも2時からのご飯を待ち侘びるのに、若い平岡くんなら尚更の事だろう。


「そだね。ゆっくりしといで。」


「了解っす!じゃ、行ってきます。」


私は昼休憩に向かう平岡くんの背中を見送った。


昨日、砂東フロア長が言っていた通り、今日は砂東フロア長自身のお客様の来店予定はないようだ。


黒物コーナーで接客中だったお客様が終わった今、砂東フロア長もレジで再び包装作業に没頭しているようで、用無しの私はゆっくりと仕事をする事が出来ている。



「よし!いったんキリがいい所で、ちょっと早いけどご飯に行こっかな。」


私はイヤホンを手に取り、<甘味、1番入りまーす。>と報告して、いつもの様にお弁当と水筒を持ち休憩室へと。


するとそこには、流し台を掃除している若林ちゃんの姿があり。



「今日はお昼休憩遅かったんだね。」


時短勤務の若林ちゃんとお昼休憩が被る事は滅多にない。


「若林ちゃんと休憩室で会うのなんて久しぶりだよね。」


とりあえずお弁当と水筒を近くのテーブルに置き、手を洗おうと若林ちゃんのいる流し台へと戻り。


「みんな砂東フロア長のお手伝いで大変そうだからね。お客様は少ないし、私ぐらいはレジに集中しないと。」


周囲を気にかけてくれている人がいるからこそ、組織は成り立っている。


自分の事しか考えない私からしてみたら、周りにくまなく目を配れる若林ちゃんには感心しっぱなしだ。



「おぉー!若林ちゃんは流石ですね〜。そういう人が1人でもいてくれると、他の人も作業に集中出来るもんね。」


「褒めても何も出ないよ?」


「砂東フロア長に見返りは求めても、若林ちゃんに見返りは求めないよ。」


「アハハ!今日はずっとレジにいるから、甘味ちゃんに仕事が回って来なくて良かったね。」


「うん。売り場で好き勝手にやらせてもらってます。」


私と話しながらも、手慣れた様子でテキパキ掃除を続ける若林ちゃん。


「いっつもごめんね。あとは私がやっておくから。」


みんなが利用する休憩室。

だけど、管理する人なんてもちろんおらず、気づいた人が気付いた時にゴミ捨てや掃除をしているのが現状だ。


そうなると、見て見ぬふりをする人が少なからずいるもので。


それでも若林ちゃんは、いつも率先して片付けや清掃を引き受けてくれていて。


「大丈夫。みんなにはいつも迷惑かけてるからこれくらいはさ。」


「そんな事ないよ。若林ちゃん、気にしすぎだって。休憩時間くらいゆっくりしなよ。家に帰ってからも忙しんだからさ。」


「甘味ちゃんは私に甘いからなー。」


「えー、普通だと思うけどなぁ。ただ若林ちゃんが頑張りすぎてないか心配にはなっちゃうかな。私が出来る事があれば何でも言ってね。」


「本当…甘味ちゃんは優しすぎるよ。そんな優しいと泣いちゃうよ。」


「えーー!!何?!ごめん!え?!私が泣かした?!若林ちゃん、ごめんね?!泣かないでよ?!大丈夫?!」


女の涙は、女でも弱い。

それが、クレームを受ける事が多いレジにいても、今まで涙一つ見せた事がない若林ちゃんなら尚更。

顔を手で覆う若林ちゃんに焦った私は、ハンカチを渡そうとポケットに急いで手を突っ込む。


「えへへ、ごめんね。泣いてないよ。」


パッと覆っていた手を退けた若林ちゃんの顔は満面の笑みだ。


その笑顔に、ホッと一安心。


「なんだー!もぉー!ビックリさせないでよー!」


「アハハ!本気で焦ってたね!どう?名演技だったでしょ?」


気兼ねなく話せる若林ちゃんといると心から楽しいって感じる。


「焦ってないしぃ!嘘泣きだなって分かってたしぃ!」


「いーや!めっちゃオロオロしてたよ。甘味ちゃんは、分かりやすいから本当かわいいなぁ。そういう所、全然変わらないよね。」


斎藤さん同様、若林ちゃんともこの店舗がオープンした時からの付き合いで。


今の若林ちゃんはお手入れしやすいようにと髪をバッサリと切って短くしているが、昔の若林ちゃんは私と同じくらい髪が長く、さらに背格好も似た私達はみんなに双子のようだと言われていた。


だから余計に仲良くなれたんだと思う。

このお店で素の自分を見せれる唯一の存在だ。


「ご存じと思いますが。私さ、今年30歳だよ?かわいいは恥ずかしいって。年齢的にもうアウトなのよ。」


「いいのいいの。甘味ちゃんはずーーとそのままでいいからね。」


若林ちゃんは、土地勘もなく右も左も分からなかった私に優しく接してくれて、同じ歳と言う事もありすぐに打ち解けて、仕事終わりの夜でも休みの日でも一緒に遊んだりしていたけど。


それから2年経った時、若林ちゃんは付き合っていた彼氏と結婚して、それからすぐに子供が産まれた。


今では遊ぶ余裕すらなさそうな程忙しいみたいで、そんな若林ちゃんの姿を見ていたら私からも誘いにくくて。


「甘味ちゃん。とりあえず早くご飯食べな?食べれる時に食べないと、いつも忙しんだから。」


「忙しいのは若林ちゃんでしょ。私の忙しいは仕事の時だけだしね。」


「んーー。そりゃあ、確かに忙しいのは忙しいけど、子供の相手しながらでも撮り溜めたドラマとかは見れてるしなー。」


「そうなんだ。…あ!じゃあさじゃあさ!この前始まったあの恋愛ドラマ見た?!」


「見た見た!しょぱなから凄かったヤツでしょ?!旦那も一緒に見てたからあれはさすがに気まずかったって。」


ドラマの内容と旦那さんの様子を事細かく話す若林ちゃんに私は爆笑。


「そうだよね!あれはR20指定だよ!あんな激しいキスした後さ、玄関でそのまま……ゲッ!」

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